ARTES インフォ*クリップ[vol.116]アルテスの2018年&ベスト・オブ2018!号

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ARTES インフォ*クリップ[vol.116]2019/1/3
アルテスの2018年&ベスト・オブ2018!号
アルテスパブリッシング
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新年明けましておめでとうございます。
“音楽を愛する人のための出版社”アルテスパブリッシングは
おかげさまでこの4月から創業13年目に入ります。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

新春第1号のインフォ*クリップは、
アルテスの2018年を振り返って
スタッフの「ベスト・オブ2018」とともにお届けします。

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■ アルテスパブリッシングの2018年
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創業12年目にあたる2018年はこんな年でした。

◎過去最高タイとなる20点の新刊を発売。うち20代の沼倉が3点、
鈴木が5点、木村が12点を担当。そのうち増刷したのは『豊かな音
楽表現のためのノート・グルーピング入門』1点のみに終わりまし
たが、『文化系のためのヒップホップ入門』10刷をはじめ既刊の増
刷が11点を数え、トータルの売り上げは堅調でした。

◎電子書籍は新刊の『未来の人材は「音楽」で育てる』『文化系の
ためのヒップホップ入門2』と、その姉妹書『ハーバード大学は
「音楽」で人を育てる』『文化系のためのヒップホップ入門』の4
点を発売しました。

◎10周年記念イヤーのあとも引き続き、16のフェアを書店、楽器
店、CDショップで開催していただくことができました。

◎今年は控えたつもりでしたが、新刊の発売記念など主宰/参加し
たトーク・イヴェントも数えてみると25本もありました。

◎3月に3冊目となるラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンの公式
本、『「亡命」の音楽文化誌』(エティエンヌ・バリリエ著)を刊
行しました。

◎7月に川崎弘二さん渾身の労作『武満徹の電子音楽』を沼倉が担
当して刊行。讀賣新聞と毎日新聞に著者インタビューが掲載される
など反響も大きく、大部かつ高額にもかかわらず多くの読者を得る
ことができました。在庫は残りわずかです。

◎10月のヘルベルト・ブロムシュテット指揮NHK交響楽団の公演
に合わせて刊行した『ヘルベルト・ブロムシュテット自伝──音楽
こそわが天命』。先行発売したNHKホールとサントリーホールでの
計6公演で500冊近い売上を記録しました。

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■ スタッフが選ぶベスト・オブ2018
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【沼倉康介】

年末に自転車で電信柱に激突し、お気に入りの眼鏡を壊し、右人差
し指を打撲し、鎖骨を折ってからというもの、まったくポジティヴ
な気持ちになれないアルテス沼倉の2018年ベストです。今年を振
り返れば良い作品にたくさん出会えたなーと明るい気持ちになりそ
うなものなんですが、座っていても痛む左鎖骨からピキピキとこれ
がお前の過ちだと言わんばかりの信号が送られるたびに「この歳に
なってなにをやっているのだ」と思わずにはいられなくなってしま
いまして…。いや……ほんとにすみません……。そして鈴木さんの
骨折をバカにすることはもうできません……。

◎音楽
say sue me – Where We Were Together(Damnably)
いまの韓国を代表する若手バンドの2枚目。あの頃のインディー感と
言って伝わるのか、高校生の頃によく聴いていた音楽がそのまま上
質になって、しかもなんとそれが韓国から出てくるなんてすごすぎ
る、としばらくずっと聴いていました。上の世代に対する変なしが
らみがないからこういった才能が素直に出てくるんでしょうかね。

Catherine Christer Hennix – Selected Early Keyboard
Works(Blank Forms Editions)
ラ・モンテ・ヤングやヘンリー・フリントとの共同作業をしていた
C・C・ヘニックスさんは1948年生まれなので今年70歳。10年ほ
ど前(?)に突如発掘されたことを覚えているひとも多いのではな
いでしょうか。今回は76年の録音が収録された作品ですが決して古
びることのないミニマル・ドローンの傑作。前衛や実験というレッ
テルを剥ぎ取って聴いてみてください。

油屋訓辞 – (No Title)(Oz Disc)
円盤の田口史人さんが主催する「oz disc」の復活第一弾。どうやら
どこかの山奥のお坊さん(でアイドル・ファン)らしいんですが詳
細は不明です。例えるならダニエル・ジョンストンのような、本当
に純粋な、「ああ、このひとに音楽があってよかった」と思える一
人宅録音源。こんな時代にもまだこうした人が世界に存在したこと、
そしてそれを見出した人がいたことに感激しました。

◎本
柳家さん喬/柳家喬太郎
『なぜ柳家さん喬は柳家喬太郎の師匠なのか?』徳間書店
すっかり寄席にもホールにも行かなくなってしまってますが実は落
語は昔からよく聞いてまして、そんなわけで僕の長年のご贔屓(と
いうとかっこいいですね)キョンキョンの本です。もちろんどう演
じるのかという落語論ではありますが、これからの時代にこの芸能
がいかに生き残るべきかといったところにも目が配られており、
「古典芸能」に甘んじない姿勢、そしてそれをとぼけてかわしてい
るのが本当にかっこいいですね。

サイモン・クリッチリー『ボウイ その生と死に』新曜社
実をいうとあまりピンときたことのなかったデヴィッド・ボウイ。
レッツ・ダンスの人なのかしらと思っていたらとんでもない、そし
てもったいないことをしてきたと蒙を啓かれた1冊です。このよう
に私的でありながら作品・作者を的確に批評する文章といった点で
もかなり稀有だと思いますし、この本にインスパイアされたという
細馬宏通さんの「music is music」も抜群に面白かったです。

阿部共実『月曜日の友達』小学館
僕もこう見えて人並みに自分は変わっているんだなと悩んだりして
いたわけですが、そうした思春期の甘酸っぱい、というと生ぬるい、
饐えた感情を呼び起こしてくれる名作。自分は何をどうやっても人
と同じ気持ちになれないんだなと苦しんだ経験のある人はみんな読ん
で欲しいです。amazarashiによる本作へのテーマ曲も必聴、これも
また泣けます。

銀林みのる『鉄塔 武蔵野線』新潮文庫ほか
最後は積読消化本。爽やか少年ひと夏の冒険小説の風体をした、い
かれたパラノイアによる鉄塔フェティシズム小説。一貫して過去形
で語られる冷徹な文体と少年の視線を借りた異様な執着心、そして
付録につく全鉄塔の写真とが相まってなんとも言い難い天然の狂気
を感じます。これが角川で青春映画になっていたというのだから恐
ろしい…。

◎スポーツ
「ツール・ド・フランス開幕前の2日間と最終週」
ゲラント・トーマンの優勝で忘れがちなのがこの開幕前の「フルー
ム出場不可」騒動。アンチ・フルームの僕はいいぞASOやったれや!!
と盛り上がっていたわけですが、結果はご存知の通り急転直下で出
場可能に。今年はもう見なくていいかと随分落ち込み、ボケっと見
ているとその後もまたご存知の通りチームの内紛(だったという噂)
によりマイヨ・ジョーヌはGが着ることに……。山で待たないGを
見て本当に興奮しましたね。上げられてから下げられて、最後にま
た上げられる、なかなかない経験でした(結局フルームが勝たなけ
ればそれで良いという特殊な立場)。

◎InDesign
「正規表現検索を用いた正字チェック」
ついに音楽や本と並び選ばれることになったベスト・オブ・インデ
ザイン。「極細スペースを用いた欧文の尻揃え」と悩みましたが、
作業効率の劇的な変化でこちらです。正規表現をうまいこと使えば
正字になっていないものを発見することが可能と気づき、導入した
ところかなり革命的な速さで校正ができるようになりました。目視
ではやっぱり抜けがでちゃいますからね。現在検索用のテーブルを
調整中ですが、気になる方がいましたらご連絡ください。

【木村 元(代表取締役)】

6月に老父が出張先のホテルで転倒、腰椎を圧迫骨折して入院して
から約半年間、東京と京都を往復しつつ、その合間に仕事をするよ
うなありさまでしたが、みなさんの多大なるご協力のおかげで、大
きな穴は空けずにすみました。父はおかげさまで退院しましたが、
これからも同じような生活が続きそうです。自分の体もいたわりつ
つ、仕事のペースをうまく落とすこともおぼえなければと思ってい
ます。

◎コンサート/ライヴ
高橋悠治+波多野睦美|冬の旅|東京オペラシティ リサイタルホ
ール(01/08)
……この組み合わせでのシューベルト「冬の旅」を聴くのは3度め。
聴衆とともに歩む「道行」の得がたい体験については、「ARTESフ
レンズ&サポーター通信」の連載にも記しました。

F.ヴェルザー・メスト+クリーヴランド管弦楽団|ベートーヴェン
/交響曲第6番+第2番|サントリーホール(06/06)
……超高性能のスーパー・オーケストラを徹底的に彫琢したある意
味究極のベートーヴェン・ツィクルス。なにより、パンフレットに
マエストロ自身があれだけ長大な楽曲解説を書くというのはひじょ
うに稀なことだと思います。

野平一郎+オーケストラ・ニッポニカ|第33回演奏会「アカデミズ
ムの系譜」|紀尾井ホール(07/01)
……池内友次郎、貴島清彦、島岡譲、矢代秋雄、野田暉行──「池
内楽派」をテーマにした貴重なコンサート。半世紀間、東京藝大を
発信源とする和声教育の中心人物だった島岡譲さんの若き日の作品
を、今日の藝大の和声教育をになう林達也さんが編曲したことも感
慨深いものがありました。

藤木大地カウンターテナーリサイタル|紀尾井ホール(12/18)
……のっけのシューマン《献呈》から異世界へもっていかれました。
終演後、隣で聴いていたヴァイオリニストの小町碧さんに「カウン
ターテナーってヴァイオリンに似ていませんか」と訊くと、「そう
ですね! 音域も近いし……」と同意してくれました。ほんらいの
声域を離れて、まるで声帯を楽器のように奏でるようなところも、
なにかヴァイオリンに似ていると思うのです。肉体と楽器との距離
感が、そのままカウンターテナーの不思議な魅力になっている気が
します。

◎本
池田善昭+福岡伸一『福岡伸一、西田哲学を読む 生命をめぐる思
索の旅──動的平衡と絶対矛盾的自己同一』明石書店、2017
……生命というものは「内から見ること」によってしか捉ええず、
またそのときに科学は哲学と統合されうる、という視点は、そのま
ま音楽にも通用するし、そして「物自身になって物を見る」(西田
幾多郎)というのは、そのまま読書するわたしたちの様子でもある
なあと。

内田樹×安田登『変調「日本の古典」講義──身体で読む伝統・教
養・知性』祥伝社、2017
……そして、「「もの」という言葉は、「これだ」とはいえない、
ある漠とした状態をいう言葉で、言語化される以前の状態、それが
「もの」なのです。そして、それこそが「本質」だと日本人は考え
ました」という安田登さんの言葉は、上述の科学と哲学の合一、芸
術と学問の協働を可能にする知のあり方を示しているのではないで
しょうか。

レベッカ・ソルニット/東辻賢治郎訳『ウォークス──歩くことの
精神史』左右社、2017
……「想像力は二本の脚が踏みしめてゆく空間を変容させると同時
にそこから影響を受けてきた」とか「誰もが歩くことについてはア
マチュアである」といった導入から、「(…)大地を細分化する土
地所有の境界ではなく、循環系のように機能して、全体をひとつの
有機体に結びつけている道にこそ、歩くことは関心を向ける。その
意味で、歩行は所有のアンチテーゼである」といった宣言まで、ど
こをとっても刺激的な身体文化誌。

長谷川郁夫『編集者 漱石』新潮社、2018
……「漱石が滞在したロンドンが、アール・ヌーヴォー花盛りの街
であったことに。散歩好きの漱石は、いわば歩行者のテンポで新時
代の空気を全身で吸収したのである。これは決定的なことだった。
アール・ヌーヴォーという芸術運動の流行の表徴を感受するだけで
なく、関心の赴くままに、足取りはその思想的源泉にまで踏み込ん
だのである」というのも、ソルニットの『ウォークス』に通ずる認
識。「編集者 漱石」も歩く存在でした。

◎CD
CDもいろいろ聴き、それぞれに楽しみましたが、とくに「今年の1
枚」と挙げたいものは残念ながらありませんでした。

【鈴木 茂(代表取締役】

◎音楽
春先にオーディオテクニカのヘッドフォンを購入し、DACから快適
な音で聴けるようになったことも影響して、昨年よりさらにサブス
クリプションで聴く量が増えました。CD音質のサービスで配信され
ている日本の音楽は少ないので、必然的にCDを買うのは日本のミュ
ージシャン、国外の音楽は欧米、南米、アフリカなどエリアとジャ
ンルを問わずストリーミングで、という聴き方に。
ジャズ、ブラジル、アルゼンチン、エレクトロニカ方面も色々聞き
ましたが消化不足のものが多く、国内のミュージシャンのアルバム
からよく聴いたものを12枚選んだのが下のリストです。
ハンバートハンバート(野音のライヴに家族全員で聴きに行きまし
た)とPerfumeは子どもたちのお気に入りで家庭内ヘビロテ。クラ
シックではパトリシア・コパチンスカヤとクルレンティスが衝撃で
した。
ライヴは就職して以来最低の20数本という非常事態に。なかではブ
ルーノートのものんくる、Live Magicでの中村まり、2度見た新生
ソウル・フラワー・ユニオン(祝25周年! アルバムも会心のロッ
ク・アルバム!)とカーネーション(祝35周年!)、ケルティッ
ク・クリスマスでのクリス・スタウト&カトリオーナ・マッケイ
(アルバム『Bare Knuckle』も素晴らしい!)、渋谷WWWXの
空間現代などが印象に残っています。

小袋成彬『分離派の夏』
ROTH BART BARON『Hex』
国府達矢『ロック・ブッダ』
ソウル・フラワー・ユニオン『バタフライ・アフェクツ』
曽我部恵一『There’s No Place Like Tokyo, Today』
挾間美帆『ダンサー・イン・ノーホエア』
ハンバートハンバート『FOLK 2』
Perfume『Future Pop』
クアトロM(松田美緒・MIKA)『プリメイロ・パッソ』
mabanua『Blurred』
ものんくる『Reloading City』
優河『魔法』

◎本
ライヴが減ったのと並んで愕然とするほど本も読めなかったので、
1冊だけ、ファン・ジョンウン/斉藤真理子訳『誰でもない』(晶
文社)を挙げておきます。韓国語で書かれた文学を日本語で読むと
いうのはとても新鮮な体験でした。

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ARTES インフォ*クリップ   配信数:2393通
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発行日:2019年1月3日
発 行:株式会社アルテスパブリッシング
〒155-0032 東京都世田谷区代沢5-16-23-303
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