6月7日付の『週刊読書人』(第3542号)に『音響設計家・豊田泰久との対話 コンサートホール×オーケストラ 理想の響きをもとめて』(聞き手:林田直樹/解説:潮博恵)の書評が掲載されました。評者は横浜国立大学准教授で音響文化論を専攻される中川克志さん。
「音楽文化全体のエコシステム 仕事の本質を理解しているプロの言葉」と題し、本書をクラシック音楽の秘密を解き明かすものとしてだけでなく、「音響設計という仕事に通じたプロであり、自分の仕事が何を生み出し、社会の中でどのように通用しているか、その隅々まで本当によくわかっている」豊田泰久さんというプロの仕事術を紹介した本として、「私のように、クラシック音楽にあまり興味のない人間にもお勧め」と書いてくださっています。
また、「本書には(クラシック)音楽文化全体のエコシステムが描かれている」と喝破、その例として、
- 音響的問題(オーケストラ・サウンドにおける第一トランペット(の音量)の重要性、サントリーホール開館直後に日本のオーケストラが日本のオーケストラが直面した問題とその解消プロセスなど)
- 社会的文脈(コンサートホールの経営基盤としての寄付文化と助成金文化の違いなど)
- 音楽実践の独特な慣習(音楽演奏に決定的に重要な行為としてのチューニングなど)
- 作曲家や演奏家に優位を置く特有の美的観念(聴衆側とステージ側の音響ではステージ側の音響を重視すべしとする理念など)
などを挙げておられます。
そのうえで、「異文化のエコシステムを記述する書籍としての本書のもう一つの美点」として、「豊田と林田の合間に挟み込まれる、音楽ジャーナリスト潮博恵のコラムあるいは解説」を取り上げ、「対談では語られないいくつかの側面を掬いあげる潮の文章は、本書をピリリと引き締めている」と評価してくださいました。