ロマンティックな芸術観は今どれほど有効か──『週刊読書人』に『配信芸術論』の書評掲載

『週刊読書人』2024年1月26日号(第3524号)に三輪眞弘監修/岡田暁生編『配信芸術論』の書評が掲載されました。

評者は音楽学者(日本音楽史)の齋藤桂さん。「「どう作るか」という議論──ロマンティックな芸術観は今、どれほど有効か」と題されています。

 現在の芸術学の多くが、芸術作品や現象を「どう受け取るか」という広義の美学の問題に取り組んでいるのに対して、本書は「どう作るか」という詩学の側にある。もちろん上演の事後に編まれた書籍であるため、直接的に創作に貢献したわけではないのかもしれないが、照準器の先にあるのは常に三輪作品である(各章の間に挟み込まれた座談や編者の独白によって、さらに読み手はそこに誘導される)。それゆえ「作る」ことに役立つような刺激的なトピックが並んでいる。

 クローズドな研究会の成果ゆえか、これらの議論がとても狭い世界の問題であるような印象も受けた。音楽と同じかそれ以上に切実かつ多様なはずの「神」「祈り」「幽霊」といった言葉が画一的に用いられ、「神なき時代」であることが自明であるかのような論の運び。世界はすでにこれらを前提として問題のないシステムの内にあり、その「外」はない、ということなのかもしれない。だが、個人の認識能力に限界がある以上、システムだと思っているものが己の欲望の境界線でないと、誰が言い切れるだろう。

 新しい出来事を作り出そうという野心と、それを目撃した/したいという高揚感とに満ちた一冊ではある。三輪の熱いファン・ブックでもある。その意味ではロマンティックな芸術観が今どれほど有効かという挑戦なのかもしれない。

このように、本書の問題点も鋭く指摘しながらも、これじたい刺激的な芸術論として興味深く読むことのできる充実した書評でした。