新しい存在論・共在論──図書新聞に『配信芸術論』の書評掲載

2024年1月13日(土)付の図書新聞(3622号)に三輪眞弘監修/岡田暁生編『配信芸術論』の書評が掲載されました。評者は「生命体」を名乗り、ピアノ奏者などとして活動されているKlagen Fishermanさん。

4000字弱の長文のじつに半分近くにわたって、大田高充さんによるブックデザインが話題になっているという異色の書評でした。

 崇高というか、不気味だが、技巧を凝らした装丁と儀式的形式を備えた、架空の典礼書。

 先に音楽本大賞2023において大賞を受賞した、柳澤英輔による『フィールド・レコーディング入門──響きのなかで世界と出会う』(フィルムアート社)の装丁においても遺憾なく発揮されていた大田高充の才能は、このアルテスパブリッシングによる稀有の物神において、憑依的な力能を物体自体に与えようとする本作りのコンセプトと共鳴して、一層顕著に示されているように思われる。

 身体から身体へと乗り移り自己を複製、変異し、増殖するウイルスが齎した圧倒的な距離のなかで、岡田が捕まえ発信した「ライブとは何か」という問いをめぐる複数の芸術論は[岡田の著書]『音楽の危機』を生成したウイルスの、いわば変異体による発展的な発現形態であるようにも見える。

 本書『配信芸術論』においては、「リアル」こそ「音楽」であると捉えることが、当然でありえた状況が失われたあとでこそ真に探索が可能な、配信技術時代の芸術作品のポテンシャルに関するより広い展望が見出され、新しい存在論・共在論が語られており、『音楽の危機』において垣間見えた「新たな音楽」の姿を、複数の特質の異なるカメラによって捕らえたものであるようにも見える。

このように本書の企画の本質にぐいぐいと切り込みながら、深い共感をシェアしてくださっています。