『新潮』にて河合隼雄物語賞の選評など発表

吉原真里著『親愛なるレニー──レナード・バーンスタインと戦後日本の物語』が第11回河合隼雄物語賞を受賞したことは既報のとおりですが、このほど『新潮』2023年8月号に「受賞の言葉」と選評が掲載されました。

吉原さんは「受賞の言葉」のなかで、「物語を語る」ことのむずかしさと意義を語っています。選考委員のひとりで作家の後藤正治さんによる選評では、とくに『親愛なるレニー』の物語の主軸となる「手紙」について、

いまやメール交信の時代であるが、はて、これほど熱のこもった便りは書きうるのか、通信手段の利便性によって失われたものもあるのではないか……と思ってしまう。

手紙という端緒を入口に、私的な世界が広く展開し、結果、戦後という時代の変遷を描くことにつながっていった。本作の成立過程自体に確かな物語性を感じた。

と評し、また

本格的なノンフィクション作品による本物語賞の受賞ははじめてである。喜ばしく思う。

と結んでくださいました。

ちなみに、『新潮』同号の特集は「「坂本龍一」を読む」。坂本さんの(意外な)ベートーヴェン愛や、藝大でフランス派の池内友次郎ではなくドイツ派の長谷川良夫を師と選んだことなどをつうじて、その音楽の「対位法的性格」に思いをはせる岡田暁生さんのエッセイを、とりわけ興味深く読みました。