それは「紙ピアノ」から始まった──
キャリア最初期から円熟期までの作品を検証。
技法と美学が描く螺旋形を読み解き、
「世界」とのかかわりのなかにその創作のエッセンスをみる。
日本の20世紀音楽を代表する作曲家・武満徹(1930–1996)。
日本の伝統楽器を大きくフィーチャーした《ノヴェンバー・ステップス》で広く知られる不世出の作曲家は、“もっとも西洋的な楽器”であるピアノを愛し、キャリアの初期から晩年まで、この楽器のために作曲した。
楽譜を緻密に分析するだけでなく、名文家として知られる武満のテクストを精緻に読解することにより、その技法と美学が織りなす螺旋形を、戦後日本固有のコンテクストのなかに描きだす。
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https://hanmoto9.tameshiyo.me/9784865592535
プロフィール
原塁(はら・るい)
1989年仙台市生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。専門は音楽学、表象文化論。現在、京都芸術大学非常勤講師、日本学術振興会特別研究員(PD/東京大学)。2022年4月より早稲田大学非常勤講師。論文に加え、これまで批評誌『ヱクリヲ』「音楽批評のアルシーヴ 海外編」、『Mercure des Arts』、ロームシアター京都webマガジン「SPIN OFF」などに批評文を寄稿。
CONTENTS
序章
はじめに
考察方法と位置づけ
考察対象
本書の構成
第一章 《遮られない休息》と「愛」の美学
はじめに
1|習作をめぐって
「新作曲派協会」
「前衛」としての民族派
三つの習作
《妖精の距離》と「移高の限られた旋法」
シュルレアリスムとの出会い
2|楽曲分析──《遮られない休息》第一曲
初演譜と出版譜の異同
初演譜の分析:響き
リズムとモティーフ
3|「愛」の美学、あるいは「現実」について
「メシアンをめぐって」
「Olivier Messiaen」
ルヴェルディのイメージ論
「現実に観よ、そして創造せよ」
「新しいリアリズム」
4|「ミュジック・コンクレート」について
「愛」から「音」へ
「物質」と「素材」
第二章 《ピアノ・ディスタンス》と「音」の美学
はじめに
1|「音」の美学の展開
「音の河」について
「西洋と東洋」、「論理と非合理」
創造としての「伝統」
能とヴェーベルン
2|楽曲分析──《遮られない休息》第二曲
音列の操作による構成
セリーの規則の拡張
3|楽曲分析──《ピアノ・ディスタンス》
問題の所在
連桁と小節にみる数的な操作による構成
「不確定性」に関わる要素の性質と配置
4|「ケージ・ショック」前夜、あるいは「枠」と「出来事」について
「一柳慧キートン説」
ジョン・ケージをめぐる言説
補論《ピアニストのためのコロナ》、および「一音」の美学
はじめに
補論1|《ピアニストのためのコロナ》
五枚の楽譜とその指示書
ジョン・ケージとの比較
「パズル」と「おもちゃ」
「記号的匿名の世界」に向かって
補論2|「音」から「一音」へ、「沈黙」と測りあえるほどに深く
邦楽器について
第三章 《フォー・アウェイ》と「関係」の美学
はじめに
1|大阪万博
テクノロジーによる「新しい芸術」という夢
《YEARS OF EAR〈What is music?〉》
2|楽曲分析──《フォー・アウェイ》
ピッチクラス・セット理論と「トーナルの問題」
固定されたピッチ
静止点の響き
運動の可塑性
3|「関係」の美学、あるいは「音階」について
「樹の鏡」とその崩壊
「草原の鏡」の差異
「一音」と「関係」、近藤譲「線の音楽」
「関係」への欲求としての祈り
「作曲家と演奏家と聴衆」
第四章 《閉じた眼》と「夢」の美学
はじめに
1|響きとかたち
問題の所在
分析の指針
2|楽曲分析──《閉じた眼》
記譜上の特徴
モティーフの操作
要素の減少
不規則な継起と流動的な音響
連結と堆積
3|《閉じた眼》における時間の多様性
響きと現在時の焦点化
反復と対照性
《閉じた眼》の時間
4|「夢」の美学、あるいは「映画的記憶」について
「夢」のかたち
二つの「夢の引用」
「映画的」という誤謬?
第五章 《雨の樹 素描》と「水」の美学
はじめに
1|イメージと想像力
バシュラールのイメージ論
イメージからの出発
2|楽曲分析──《雨の樹 素描》
ミクロ構造のシンメトリー
マクロ構造とアルバン・ベルク
3|「水」の美学、あるいは武満徹の霊性
「水」の神秘的な性質
「自然」と「宗教」、再び「Mirror」について
スピリチュアリティの興隆と『洪水はわが魂に及び』
4|「雨の木(レイン・ツリー)」を「素描(スケッチ)」する
メディウムの横断
「雨の木(レイン・ツリー)」のイメージ
「宇宙発生論的樹木」
結論
あとがき
文献一覧
索引