『総人・人環フォーラム』に『武満徹のピアノ音楽』の書評掲載

京都大学大学院人間・環境学研究科が刊行している『総人・人環フォーラム』第41号に原塁著『武満徹のピアノ音楽』の書評が掲載されました。評者は名古屋外国語大学世界教養学部准教授の白井史人さんです。

総人・人環フォーラム 第41号|京都大学学術情報リポジトリ 紅
※ページ内にPDFへのリンクがあります。

 本書は「ピアノ」というひとつの楽器に焦点を絞ることで、ときに錯綜しつつも、着実に変貌を遂げる武満の歩みを描きだすことに成功している。その成果は、武満が特色ある用法を展開したさらなる楽器群や(ヴァイオリン、トランペット、ギターなど)、第四章で時間意識や記憶の問題のなかで言及される映画の音楽など、別ジャンルの活動とのズレや並行性を考えるための重要な指標となろう。

 読後にあらためて実感したことは、武満の作品への音楽文献学的作業の可能性と必要性である。本書の魅力の中心は、テクストと作品分析を結びつけていくそのダイナミックな手つきにあるにせよ、記述の端々からは、未刊行の自筆草稿等の綿密な基礎調査の成果が滲んでいる。作品に潜む「エネルギー」の源泉を見極めようとする著者の欲望は、「素材」としての楽譜と楽器に対する武満のフェティッシュなこだわりとリンクしているかのようだ。そのようにして紡がれた本書は、武満の言葉と音楽に、耳を澄まし語るべきことがいまだ多く残されていることを知らせている。

高く評価していただき、版元としても光栄です。