小室敬幸さんのnote「『ピアノ』よ、お前は一体何者で、どこから来たのだ?特集……の補遺」

先週の14日にライムスター宇多丸さんのTBSラジオ『アフター6ジャンクション』で、坂本龍一さんの『コモンズ:スコラ18 ピアノへの旅』刊行を期して企画された特集「『ピアノ』よ、お前は一体何者で、どこから来たのだ?」が放送されました。

ピアノ(鍵盤楽器)成立史のミステリーを追いながら縦横無尽に想像(妄想?)を膨らませたこの本の第1部のテーマを受け継ぎつつ、プレイリストを作れなかったその内容を補うだけでなくさらに膨らませた内容で、じつに濃密な55分でした。担当編集者としても発見があれこれあり、大いに楽しませてもらった次第です。

この特集を企画者してくださった小室敬幸さんには『ピアノへの旅』でCDガイドを半分執筆していただいていますが、番組の内容を補強するnoteを書いてくださったのでご紹介します。

最初はピアノができあがるまでの歴史から。現存する最古の鍵盤音楽とされる曲の演奏に始まって、オルガンの原型であるヒュドラウリス(紀元前3世紀!)の復元演奏(本のカラー口絵では国立音楽大学に展示されているまた別の復元楽器を紹介しています)、ツィターやダルシマー、チェンバロ、さらには最古のチェンバロ(15世紀)であるクラヴィキテリウムの演奏(本の39ページに図面を掲載)などなど、ピアノの歴史を17世紀以前に遡りながら本で話題にしたさまざまな楽器の音を聞くことができます。

なかでも重要な存在であるクラヴィコードの音は、なんとビートルズが66年に録音した「フォー・ノー・ワン For No One」! チェンバロだと思い込んだまま何十年も聴いていましたが、あれはクラヴィコードだったんですね。マーク・ルウィソーンの『ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ』にも1966年5月9日「ポールのクラヴィコードがオーバーダブされた」とちゃんと記されていました。

後半は、モーツァルトやベートーヴェン、ドビュッシーなどの名曲を作曲当時や20世紀初頭のピアノで弾いた演奏を紹介。本の第1部は「ピアノの謎について、かなり具体的に『ここが分からない』というところまでは辿り着けた」という坂本さんの発言で締めくくっているくらいで、このあたりの話はフォローしていないので、ありがたいかぎり。
シューマンやショパンの演奏が紹介されている小倉貴久子さんには『カラー図解 ピアノの歴史』という著書もあり、コンパクトながら内容の濃いそちらもたいへんお薦めです。

本を作りながら坂本さんたちが取り上げた演奏をあれこれ聴いたり、資料を調べたりしているうちに、工業製品として完成される前のピアノの音にすっかり魅了されてしまったのですが、こんな風に音源を聴きながらテキストを読めるのは現代ならでは。あらためて本を開いて楽しんでいただけたら嬉しいです。お持ちではない方はぜひ書店などでご購入を!

小室さんはApple Musicにプレイリストも作ってくれましたので(小倉さんの音源がSpotifyにはないのです)、『ピアノへの旅』第2部の音源をピックアップしたプレイリストと合わせてじっくりお楽しみください。

なお、radikoのタイムフリーで聴ける期間はすでに過ぎましたが、この放送はSpotifyのPodcastTBSラジオクラウドで音楽以外のトークを聴くことができます。         [鈴木]