高橋アキさんから『武満徹の電子音楽』へ推薦コメントをいただきました!

ピアニストの高橋アキさんから川崎弘二『武満徹の電子音楽』へ推薦コメントをいただきました!!
生前の武満徹をよく知り、ともに活動もおこなってきた高橋アキさんからこのような評価をいただけて大変光栄です!

1968年4月、私は武満さんたちとタクシーに乗っていた。そこに突然、マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されたというショッキングなニュースがラジオから飛び込んできた。そして暗殺前日のキング牧師の演説が流された。武満さんはすぐに同乗のマネジャーに「この演説の録音を手に入れられますか」と声をかけた。私はその思いがけない言葉に驚いた。同時に「あぁ、追悼の音楽をミュジック・コンクレートで作るつもりなのかな?」と閃いた。実際作られたのかは知らない。けれどあの頃はミュジック・コンクレートという発想が自然に出てくる時代だった。後年、武満徹というとドビュッシー、メシアンの流れを汲む流麗な音色のオーケストラや室内楽の作品、またポップなソング集の作曲家のイメージが定着するけれど。

この本は驚くほど綿密に調べた資料から構成されている。如何に武満が十代の頃からミュジック・コンクレートに興味を抱き、これからの音楽として、映画、演劇、放送などの作曲で、さまざまに実験を重ねていたかがよくわかり興味が尽きない。これは天才的作曲家、武満徹の通過して来た時代の証であり、また共に生きて仕事をしてきた人たちの記録ともなっていて大変貴重だ。

高橋アキ(ピアニスト)