『わが友、シューベルト』のデザイン・コンセプト解説

いよいよ2月22日(水)発売となる堀朋平著『わが友、シューベルト』ですが、装丁と造本設計を担当したデザイナーの木下悠さんが、ご自身のサイトで同書のデザイン・コンセプトについて解説されています。

わが友、シューベルト|Yu Kinoshita Design studio
https://sites.google.com/view/ykdesign/works/schubert

まず、カバーには著者の堀さんからご提案いただいたルドルフ・フォン・アルト『トラウン湖』を装画として使用。帯でも謳われている「親しさ」を情感豊かにたっぷり伝えてくれると同時に、本書のすさまじい密度にも応えうる絵として唯一無二であり、所蔵先であるウィーンのアルベルティーナが特別に高解像度データを作製してくれたことで、精細な印刷が実現しました。

そのカバーの中心部を正円で型抜きし、表紙にあしらわれたタイトルとそれを囲む球状星団「メシエ15」が覗き見えるようにしたのが、本装幀の最大の特徴になっています。シューベルトが「ここではないどこか」を探し求め、友とともに万華鏡から「星空」を覗いていた(であろう)という記述から着想を得たものですが、それが同時に、「他なるしらべを現前させる切断の享楽がこの作曲家を貫いている」と本文中に書かれているように、シューベルトの大きな特徴のひとつである「切断癖」をも表せるのではないかと考えました。

帯はトレーシングペーパーを用い、カバー装画のルドルフ・フォン・アルト『トラウン湖』を透けさせることで、「親しさ」と「断絶」が同居するようにしています。

と、デザイナーとはコンテンツにたいして、ここまで解像度高く意識を向けているのかと嘆息するような解説です。

弊社のカタログのなかでは「姉妹作」の位置づけをしているイアン・ボストリッジ著/岡本時子+岡本順治訳『シューベルトの「冬の旅」』のデザイナー、桂川潤さんへのオマージュも、デザイナーならではの共感と敬意にあふれたもので、深く感じ入りました。

この類い稀なる装丁を構成するひとつひとつのパーツを写した美麗な立体写真も数多く掲載されていますので、ぜひご覧になってください。