前回ご紹介したフィルムセンターの岡田秀則さん、作曲家の服部克久さん、レコードプロデューサーの本城和治さん、作曲家の村井邦彦さんに続いて、朝妻一郎さんからのコメントをご紹介。朝妻さんはポピュラー音楽評論の草分けであり、また日本で音楽出版ビジネスを確立させた功労者。いくら尊敬してもしきれない大先輩です。
◎朝妻一郎(株式会社フジパシフィックミュージック代表取締役会長)
数ある音楽家の自伝の中でも最も優れたものの一つに挙げられるにふさわしい素晴らしい本である。
この本を読むと、一応ミシェル・ルグランを知っているつもりだった自分が、コンセルヴァトワールにわずか11歳で入学を許された、ということを初めとして、彼の天才ぶりと、その天賦の才能に安住せず限りない努力を重ね、自分を高めていく姿に、実は何も知らなかったことを思い知らされる。
どのエピソードも面白いが、私には映画『華麗なる賭け』の音楽と映像の関係と、主題歌の〈風のささやき〉が生まれるいきさつがとても興味深かった。しかもこの音楽はヘンリー・マンシーニが最初頼まれていたのにスケジュールが合わなかったので、マンシーニが映画のプロデューサーにミシェルを紹介したという裏話までついて……。
共著者のステファン・ルルージェも触れているが、ミシェルがどうしても取り入れたいと言った、現在の場面から過去にフェードインしていくスタイルが見事に成功していて、読んでいてとても気持ちよく入り込めた。
記された全部のレコードを改めて聞きたくなった。