松田美緒のCDブック『クレオール・ニッポン』が、第2回「鉄犬ヘテロトピア文学賞」の特別賞を受賞しました!(本賞は横山悠太『吾輩ハ猫ニナル』、井鯉こま『コンとアンジ』の2作) 文学として評価されるとは、じつに望外の喜びです。CDブックという形で世に出したことが結果的に、コアな音楽好きの外に届くことに結びついたのかなとも思います。掛け値なしにすばらしい作品なので、これを機にさらに多くの人の耳と目に届きますように。
プレスリリースから選考委員の皆さまの『クレオール・ニッポン』選評をご紹介します。(敬称略)
●温又柔
決して一つではないニッポンの、あちらとこちらで歌われ、聴かれてきた「うた」の記憶をみずからの足で丹念に辿り、その結実を、みずからの歌唱と演奏をとおして一枚のCDの中に住まわせる。あったことすら忘れ去られかけていた美しい「うた」たちは、リスナーがCDを再生したとたん、松田美緒さんの洗練された歌唱でリスナーの目の前にあらわれる。素敵な試みだと感じました。
●木村友祐
特別賞である松田美緒さんのCDブック『クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する』は、文化も景色も平板化する一方に見えるこの国の別の相貌、陰翳と起伏に満ちた土地と人々の営みを鮮やかに想起させるものだった。国境をも越えて歌に込められた思いをたどり、新たな命を吹き込む。美しく稀有な仕事である。
●管啓次郎
念入りな調査に立ってわれわれの歴史観を押し広げてくれる『クレオール・ニッポン』のために「特別賞」という枠を設けることにした。歌はうたわれなければ歌ではない。歴史と地理のかたすみで眠っていた歌を、のびやかな声でみずみずしく甦らせたこの意欲作は、人に世界を渡るための勇気を与える。
●田中庸介
今回これら二作の追い風となったのは、『クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する』に添付されたCDの出だしのピアノのパッセージだった。圧倒的な力をもってわれわれを〈ヘテロトピア〉へといざなっていこうとする松田美緒さんの高い音楽性が、ジャンルを超えて、本来われわれが追究すべきことは何か、ということを思い出させてくれ、これらの候補作が他の作品をぐんぐんと追い抜く足の速さを見せた。
●中村和恵
『クレオール・ニッポン』がたどる日本の南や北の歌の源は、開かれて風通しよく、国境も時代も歌がやすやすと越え流れて伝わってゆくさまが光り輝くよう。ことばのわざのみに命を懸けてゆくひとをまず大切に評価することが文学評価の場ではやっぱり第一に大事なわけだけれど、音やイメージとともにことばが命を得る場面も目に留めていきたいとおもった。
●山内明美
津々浦々の詩(Uta)が、空に解き放たれて、地球をぐるりと包み込んだようだった。相馬の大漁は、解き放たれて異郷の詩になるだろう。記憶は無くならない、積もって積もる、美味しい魚が、食べられる日まで。
※詩人の管啓次郎さんが提唱して始まったこの「鉄犬ヘテロトピア文学賞」とは →
以下の精神を刻みこむ作品を選び、その作者の世界に対する態度を支持するものです。それはまた、グローバル資本主義に蹂躙されるこの世界に別の光をあて、別の論理をもちこみ、異郷化する運動への呼びかけでもあります。
・小さな場所、はずれた地点を根拠として書かれた作品であること。
・場違いな人々に対する温かいまなざしをもつ作品であること。
・日本語に変わりゆく声を与える意志をもつ作品であること。ジャンル不問。日本語で書かれた文学作品、日本語の想像力に深く関わる作品を選びます。