第11回河合隼雄物語賞・学芸賞授賞式の報告が公開されました

河合隼雄財団のホームページに、7月14日(金)ホテルオークラ京都にて挙行された「第11回河合隼雄物語賞・学芸賞授賞式」の報告が掲載されました。

第十一回河合隼雄物語賞・学芸賞の授賞式が行われました|河合隼雄財団
https://www.kawaihayao.jp/ja/prize/3329.html

吉原真里著『親愛なるレニー──レナード・バーンスタインと戦後日本の物語』が受賞した河合隼雄物語賞の選考委員のひとり、岩宮恵子さんによる選評は以下のように紹介されています。

今回初めて、
ノンフィクションが河合隼雄物語賞を受賞し、
物語賞にあらたな歴史が刻まれたことを紹介。
河合隼雄は
クライエントの人生が大きな偶然によって展開する物語性について
常々語っていたが、
この本も著者であり学術研究者である吉原さんが出会った
偶然によって誕生したことからすでに物語が始まっており、
そしてこの本に登場する二人の日本人にとって、
それぞれがバーンスタインに向けて手紙を書き続けることが、
それぞれの人生をいかに動かしていったか、
さらにはこの本の制作過程で
さまざまな出会いと出会い直しが重なって物語が展開していくことを
丁寧に描かれていることが話されました。
さらには戦後日本の状況を文化のみならず
多層的に深い考察を展開していることの素晴らしさも有しており、
物語賞にふさわしい作品として選出されたことが話されました。
現在でも、「推し活」という言葉もあるが、
思い通りに行かないときに誰かを純粋に応援し続け、
その作品を丁寧に分析していくことが、
自分の物語を作ることになることを
しみじみ感じさせてもらったということも指摘されました。

吉原真里さんによる受賞スピーチは以下のようなものでした。

アメリカの歴史や文化、
日本やアジアとの関わりの分析し日本語と英語で論文を執筆する研究者、
教育者としてのこれまでの自身の経歴の上で、
アメリカとの関係が深く、音楽を愛し、
文化庁長官を務めた河合隼雄の名前を冠した賞を受賞したことに
感慨深く感じていると話されました。

研究者である自分が、資料の収集、
分析の上で執筆した本書が「物語賞」を
受賞することに驚くとともに、
優れた文芸作品に仕上げるにあたり、
二人の主要な登場人物、
手紙の送り手が自分を信頼しその筆に託してくれたこと、
惜しみなく共有してくれたことへの感謝が述べられました。

本書ではいくつも交差する物語が描かれています。
レナード・バーンスタイン自身、
この偉大な音楽家と文通を通じて愛情を育んだ2人の日本人、
さらには手紙自身も一つに主人公として役割を果たしていること。
またアメリカと日本の政治や芸術文化や人々の暮らしという
マクロとミクロがいかに絡み合っているか。
さらには執筆過程を通じて著者自身が
人間として成長したことを実感したことが話されました。

本著書の執筆を通じて物語を語ること
(語るべきこと、語らずにおいておくこと)が、
文芸作家だけでなく研究者やジャーナリストにとっても大切なことであると、
印象に残るスピーチでした。

そのほか、学芸賞の選考委員である中沢新一さん、受賞者の國分功一郎さんの、それぞれ心に残るスピーチも再録されていますので、ぜひお読みください。

授賞式に出席して、あらためて河合隼雄という巨大な知性のなかに分かちがたく包含されていた「物語」と「学芸」という人間の根源的ないとなみを顕彰するこの賞の意義に思いをいたすとともに、その精神を継ぐものとして『親愛なるレニー』を選んでいただいたことに感謝の気持ちを新たにしました。