第71回日本エッセイスト・クラブ賞|贈呈式の報告が公開されました

(写真は伊澤理江さんの代理で出席された講談社・青木肇さんと吉原真里さん)

5月30日におこなわれた「第71回日本エッセイスト・クラブ賞」の贈呈式のレポートが、同クラブのホームページに掲載されました。

第71回(2023年) 日本エッセイスト・クラブ賞
http://essayistclub.jp/index.php/2/2-3-2

吉原真里著『親愛なるレニー──レナード・バーンスタインと戦後日本の物語』について、審査委員長の秋岡伸彦さんは冒頭の挨拶のなかで、

[受賞作2作について]ともに、綿密な取材・調査、豊かな表現、読者を引き込む構成、そのすべてで高く評価されました。

と評価、審査委員の松本仁一さんは受賞作の紹介のなかで、

 強く印象に残ったのは、敗戦直後の日本に、バーンスタインの音楽をきちんと評価し、それを英語で綴って手紙を書く男女がいたということです。そして同時に、世界的な巨匠が、それを適当にあしらうのではなく、誠実に対応していたということです。

 著者は、巨匠とファンの、そんな生き生きとしたやりとりをみごとに掘り起こしました。

と語っておられます。

また吉原さんは、受賞の言葉として、まず

 こうして、いろいろな著者たちが、言葉や文化、社会、「国」と格闘しながら、さまざまなジャンルで日本語の文章を綴ってきた、その産物に真剣に向き合い、賞を与えてきた日本エッセイスト・クラブ、その営み自体が、とても貴重な「エッセイ」であるように思います。

とこの賞の存在の意義を語ったうえで、「今回の本ほど、調査と執筆の過程でさまざまな紆余曲折を経験したことはありませんでした」としつつ、

私にとってこの本の執筆は、まさに人間としての力を試されるものであり、その過程で本当に多くのことを学びました。

[…]『親愛なるレニー』が刊行されてからも、私が想像していなかった形の出会いを数多く経験しています。バーンスタインや音楽をこよなく愛し、この本に登場するコンサートに足を運んだり録音を聴いたりして人生を送ってきたかたたちが、まさに天野さんや橋本さんがバーンスタインにしたように、私に手書きで手紙を送ってくださったり、イベントに足を運んで思いを言葉で伝えてくださったり、ご自分のお仕事の成果を私と共有してくださったりしています。また、必ずしもバーンスタインやクラシック音楽に馴染みがない読者でも、この本の著述をとおして自らが生きてきた人生や社会を振り返るきっかけになっているようです。この本は多くの読者にとってまさに本のサブタイトルである「戦後日本の物語」なのだと感じています。そのように、読者が自らを見出し、レレバンスを感じられるような本を書くことができたのは、著者としてほんとうに幸せなことです。

と執筆の過程と、刊行後にもつづくさまざまな人々との交流について語りました。

同時受賞は伊澤理江さんの『黒い海──船は突然、深海へ消えた』(講談社)。15年前に起きた海難事故をめぐり、困難な調査を重ねて事実を明らかにした労作です。審査委員の海老沢小百合さんによる受賞作の紹介、著者・伊澤理江さんによる受賞スピーチも胸にせまるものでした。