『現代史研究』に『抵抗と適応のポリトナリテ』の書評掲載

現代史研究会の機関誌『現代史研究』68号に、田崎直美著『抵抗と適応のポリトナリテ──ナチス占領下のフランス音楽』の書評が掲載されました。評者は法政大学教授で近現代ドイツ史がご専門の辻英史さん。7ページにわたる充実した書評です。

タイトルに採られた「ポリトナリテ」について、

1940年の対独敗戦から1944年の解放までのフランスにおける音楽活動の状況を、その関係者のさまざまな思惑や利害の交錯として描き出した本書にふさわしい表現であると同時に、本書に「虐げられた音楽家たち」として登場する作曲家ダリウス・ミヨーの作風でもあり、その点でも格好のネーミングと言えよう。

とし、

著者はあとがきのなかで、音楽家たちの「適応(accomodation)」の努力を個別に検証することを通じて、「閉塞感漂う社会を生きる音楽家たちそれぞれの、表面的には見えざる実情」を描こうとしたと述べており(274頁)、こうした等身大の人間の生き様を描いたところに本書の大きな魅力がある。ドイツによる占領という特殊な事情のもとで音楽芸術という文化活動がいかに繰り広げられたのか、そこに関係した人々がどのような行動をとったのか。一見無秩序で手当たり次第のように見えるさまざまな政府諸機関や音楽団体の活動が、その中に込められた関係者の思惑と利害関係を含めて克明に解き明かされ、蜘蛛の巣のように織りなされた相互関係のネットワークとして描き出されていく様は、本書のもっとも読み応えある部分である。

と高くご評価いただきました。

そのいっぽうで、「ナチ体制自体が多頭支配的性格を持つものであるため、ドイツの占領政策も決して一枚岩のものではなかったし、一貫してもいなかった」という「ドイツ側の事情については捨象されているのは残念である」、そして、「音楽作品そのものからポリトナリテを読み解くことの難しさ」「音楽は抽象的藝術であるから、そこに込められた作曲者の意図やメッセージは時として明瞭ではなく、いかようにでも解釈可能なものになる」とご指摘いただきました。