日本音楽芸術マネジメント学会の学会誌『音楽芸術マネジメント』2020年第12号に『クラシック音楽家のためのセルフマネジメント・ハンドブック』(B.ケレス+B.メーネ 著/後藤菜穂子 訳/石田麻子 日本語版監修)の書評が掲載されました。評者はエリザベト音楽大学の壬生千恵子さん。A4判で4ページにわたる充実した内容の書評です。
冒頭で本書を、
[…]音楽家が生きていくために必要とされる広範な事項が、端的にまとめられた良質なハンドブックである。
と位置づけ、音楽の世界においてもキャリア教育やキャリアデザインという考え方が普及してきた社会的背景を説明したのち、本書の構成や主だった内容について、かなり詳しく解説してくださっています。
そのうえで、
具体的な事例や方法を読みやすい文章で語り、要点が把握しやすく魅力的な項目設定がなされている。このことは、時に用語の概念的理解から始めなければならない層をも含む、様々な段階の音楽家を対象とする著作物においては、とりわけ重要な要素であろう。
「生きた現場からの投げかけ」ともいえる本書は、クラシック音楽家あるいは音楽家を目指す若者だけでなく、音楽産業、マネジメントに関わる人々、さらには海外のクラシック音楽のビジネス世界を垣間見てみたい、というような多様な層の読者を惹きつけるに違いない。
読み返して思うのは、本書のセルフマネジメントに関する記述は、音楽家に限らず、個と公の空間的・時間的距離感が変化し、また誰もが表現者となり得る社会において、セルフマネジメントが必要な多くの人に当てはまるであろうということである。また本書が文章全体をとおして、何より音楽家への愛情が感じられるものとなっていることも、特筆すべきであろう。コンサルティング的な書物や、教育的視点からの書物にはない、心地良さをもって仕上げられている。
とたいへん高く評価していただきました。壬生さん、ありがとうございました。