岸本宏子さんの逝去を悼んで

いよいよ今週金曜日、10月23日に『つながりと流れがよくわかる 西洋音楽の歴史』(岸本宏子+酒巻和子+小畑恒夫+石川亮子+有田栄 著/河合千明 イラスト)が発売となります。
そんななか、悲しい知らせが入ってきました。本書の著者のひとりで音楽学者、昭和音楽大学名誉教授の岸本宏子さんが10月9日に逝去されたのです。
9月の初めころ、いよいよ10月発売が決定したことを聞いて、とても喜んでおられたそうですが、それだけに、生前に完成した本をお届けできなかったことが悔やまれてなりません。

本書のために岸本さんがお書きになった「いささか個人的なあと書き」にも記されていますが、編集者であったご主人とともに本書の出版を構想されたのは2009年のことだそうです。
それから11年間──。その間にご主人を亡くされ、ご自身も闘病を続けながら、企画立案者、筆頭著者として力強くこの企画を推進されました。

 1969〜75年(72〜74年は帰国)と1978〜81年との2回の留学が、それまでの「謎」 を解く「カギ」との出会いとなり、「日本人が理解できる西洋音楽史」は、「西洋史を知っている欧米人の西洋音楽史」とは違う学びが必要である、という発見が確信へと変わっていきました。なぜそのことがわかったのか? 小学校時代にむさぼるように読んだ愛読書、冨山房の『こども世界歴史』(中嶋孤島著、上巻1949、下巻1950)のおかげです。それ以降、大人になってからも歴史書をいろいろ読みました。西洋史を理解するには、アラブの歴史も必須、シリアそしてエジプトの歴史も。地中海を囲む人々が作った歴史、その最近の1200年ほどだけが「西洋音楽史」に関係しているのです。そして、一神教といわれる宗教群が、音楽史にとっても最も重要なカギのひとつなのです。それにはどんな意味があるのか。(「いささか個人的なあと書き」より)

このような思いから構想された本書をつうじて、岸本さんが夢見た「日本人が理解できる西洋音楽史」を、ひとりでも多くの方に理解していただき、親しんでいただくことが、岸本さんへのいちばんの供養になると信じて、発売日をむかえたいと思います。

岸本宏子さんのご冥福を心からお祈りいたします。

アルテスパブリッシング 一同