「メルキュール・デザール」に『フォルテピアノ』の書評掲載

少しお知らせが遅くなりましたが、Web音楽批評誌「メルキュール・デザール」に、4月15日付で筒井はる香著『フォルテピアノ──19世紀ウィーンの製作家と音楽家たち』の書評が掲載されました。評者は音楽学者の大河内文恵さん。

本書は18世紀後半から19世紀前半にかけてのウィーンにおける有力な楽器製作会社であったシュトライヒャー社を中心として、当時のフォルテピアノ製作者たちの活動を鳥瞰的にとらえ、実際の音楽作品と照らし合わせることによって、楽器製作と音楽家との影響関係が、「製作者→製作物(楽器)→消費者(音楽家、愛好家)」という一方通行ではなく、互いに影響し合う動的相互関係とでもいうべき状況にあることを解き明かしたものである。

シュトライヒャー社は現在では存在しないのだが、直系の子孫にあたる人々が携わっているアルヒーフがあり、シュトライヒャー社にかかわる資料がすべて保管されている。それらから筒井が厳選した手紙に書かれた顧客からの要求を読むのはゾクゾクする体験だった。

第5章までは一見バラバラのエピソードが語られているようにみえるが、第6章ですべてのピースがぴたりぴたりとはまっていっていき、大きなパズルが組みあがる光景は、最初から通して読んでいなければ決して味わえないものである。

筒井はこう述べる。「現代のピアノの価値基準からすれば、マイナス面であるはずの音の弱さや減衰の早さをベートーヴェンは個性と捉え、それを表現に変えて作品を創作した。過去の楽器を未完成だと軽視すれば、作曲家の頭のなかで鳴り響いていた音響世界からどんどん遠ざかってしまうことだろう。」 一見マイナスに見えることも、観方を変えれば大きなプラスになる。いま困難に直面している私たちの心に響く言葉がここにはあった。

このように、研究者ならではのまなざしで、強い共感をもって読んでくださいました。うれしい書評をありがとうございました。