音楽のような本をつくりたい――ご挨拶にかえて

みなさん、はじめまして。アルテスの木村元です。ウェブサイトのオープンにあたり、ご挨拶させていただきます。
大学を卒業してすぐに出版社に入社し、以来丸19年、ひたすら書籍を作りつづけてきました。書籍といっても、勤務していたのが音楽之友社という専門出版社でしたから、「音楽の専門書籍」ばかりを、数にして200点以上せっせとつくってきた、ということになります。
このたび、同じく音楽之友社出身の鈴木とアルテスパブリッシングを立ちあげるにあたって、「〈音楽〉ということばは社名に入れないようにしよう」と確認しあい、「技芸・学芸一般」を意味するラテン語「artes」を名前に冠したわけですが(「会社案内」もご参照ください)、でも専門出版社で育った人間がいきなり専門でないことを始めるわけにもいきません。やはりこれからも「音楽の専門書籍」を中心に、それ以外のことにも少しずつチャレンジしながら、出版活動をしていきたいと考えています。
でも、せっかく新しく会社をはじめたのですから、胸に秘めたるささやかな野望というのも、ないではありません。ぼくたちはこれまで「音楽についての本」をつくってきましたが、これからは「音楽のような本」をつくってみたい――というのがぼくの夢です。
考えてみれば、「音楽書籍」ということばは、それじたいのなかに矛盾というか背理を含んだことばです。「音楽について書かれた本」を読んでも、かんじんの音楽は聞こえてこないし、音楽を聴いたときの感動を味わうことができるわけでもない。「本をいくら読んだって、音楽がわかったことにはならない」といわれることもよくあります。そのとおりでしょう。
ただ、そもそも本というものは、そのなかに書かれている知識・情報の容れ物というだけではないのではないでしょうか。その重みをたなごころに感じ、カヴァーや本文用紙の質感を指に感ずること、からだ全体に知がしみこんでいくのと同じスピードでページを1枚1枚めくること、読み了えた本をそっと書棚に戻すときの充実した気持ち――それらすべての総体をぼくたちは「本」という名前でよんでいるのかもしれません。
アルテスがこれからつくる本の多くは「音楽についての本」になるはずです。でも、ただたんに「音楽についての知識・情報をパッキングした容れ物」をつくるのではなく、むしろ、かりに音楽についてひとことも書かれていなかったとしても、その本を読むことじたいが、なにかよい音楽を聴いたときと同じような体験をあたえてくれる――そんな本をつくれたら、と心から願っています。
最後になりましたが、今日にいたるまで応援・協力をいただいたすべての方々に、心から感謝いたします。これからもアルテスパブリッシングを末永く見守り、ご指導くださいますよう、この場を借りてお願い申し上げます。[木村]