礒山雅さんのご冥福をお祈りいたします

教養としてのバッハ

音楽学者で日本音楽学会会長もつとめた礒山雅さんが2月22日逝去されました。1月27日に大雪で凍結した路面で転倒し、頭を打って入院し、意識不明のままだったそうです。あまりのことに言葉もありません。

弊社では『教養としてのバッハ──生涯・時代・音楽を学ぶ14講』の編者のひとりとしてたいへんお世話になりました。また、私(木村)にとっては、学生時代からかずかずの名著によって音楽書の魅力に目を啓いてくださった恩人であり、1988年に私が音楽之友社に入社して最初に担当した『バッハへの新しい視点』(角倉一朗編)や、『精神と音楽の交響──西洋音楽美学の流れ』(今道友信編)など、とくに思い入れ深い書籍の執筆者として、仕事を超えてつねに深い学びをあたえてくださった師のひとりでもありました。

アルテスパブリッシング創業後も、これぞと思う新刊はかならずお送りしていましたが、たびたび「このまえ送っていただいた『○○○○』という本、あれはよかった。著者はどういう人?」と好奇心いっぱいの声を弾ませてお電話をくださいました。私にとっては(吉田秀和さん亡きあとはとくに)「礒山さんに喜んでもらいたい」ということが、本づくりの大きなモチベーションとなっていたのを、いまさらながら実感します。

この数年は、礒山さんが私淑した稀代のバッハ研究家・杉山好さん(1928-2011)の遺したJ.S.バッハの声楽作品の対訳を集成する企画を立ち上げるにあたって、杉山バッハ学の神髄を序文のかたちで読者に伝えてほしいと、折りにふれて相談していました。企画が軌道に乗るまえに、このようなかたちでお別れが来るとは残念でなりません。

いつの日か、礒山さんの単著をこの手で編集したいという思いを果たすことはできませんでしたが、せめてこれからも礒山さんが喜んでくれるような本を出し続けていこうと思いを新たにしているところです。

心からご冥福をお祈りいたします。

アルテスパブリッシング代表 木村 元