インディーズ・レーベルのように

相棒の木村にすっかり出遅れてしまいましたが、日本で2番目に小さい出版社(^^)、アルテスパブリッシングの鈴木茂です。参考書を買ってきて株式会社の作り方を勉強するところから始めて、自力で登記にこぎ着けたのが4月5日。それからさらに4ヶ月以上かけてウェブサイトをオープンできました。ようやく世の中に存在している実感が湧いているところです。
「自分で出版社をやってみたい」という思いが自分のなかでくっきりと形になっていくにあたっては、たったひとりでCDレーベルを運営している友人たちの影響が大きかった。制作からプロモーション、販売までフル回転しているdoubtmusicの沼田さんやThe Music Plantの野崎さんを見ていて、出版もあんなふうにやれたらいいんじゃないか? と思うようになったのだ。それに中川敬、山口洋、大熊ワタル、ムーンライダーズといった敬愛するミュージシャンたちの真にインディペンデントな活動にも大いに刺激された(同じ再販商品とはいっても、CDと書籍では業界事情もちがうし、出版業界の新規参入障壁の高さも実感しているけど、その話はまた別の機会に)。
もうひとつ、3年ほど前に著作権法改正反対運動に参加したときに切実に感じたのが、自分で責任がとれる自前のメディアが欲しい、ということ。だれかに迷惑をかけるんじゃないか、なんて気にしなければいいのかもしれないけど、ついつい余計な気を回してし、不自由を感じてしまったのだった。
そんなわけで、インターネット・ラジオのカフェ・フィガロでも喋ったように、創業の思いみたいなことをあえて言葉にすれば、目新しさはないけど、「出版のインディーズ・レーベルをやりたい」というのがいちばんしっくり来るとおもう。
音楽と出版のなかのごく限られた世界で生きてきただけで、これといって高邁な理想があるわけじゃないし、編集者として特別な才があるわけでもない。もちろん豊富な資金とも縁がない。それでも、書きたいことを持っている人、それを本というかたちにして世に出したいと望んでいる人が、その思いを実現していくお手伝いぐらいはできるんじゃないか。や、もっと正直に言えば、自分が読みたい本、世に存在させたいと思える本を作って売って、食べていけたら…。「本は、ニーズがないのに作られる珍しい商品だ」とも言われるけど、逆に言えば出版はこんな素朴な夢が通じる(かもしれない)世界なのだ(音楽も)。
同じ思いを抱いている編集者は無数にいると思う。どこの会社で仕事をしていても、多くの編集者はみな同じ愚痴をこぼし、同じ怒りを抱え、同じ夢と迷いを抱きながら、仕事をしているんだと思う。
そんななかでずいぶん時間はかかったけど(四捨五入したらもう50だ!)とにもかくにも版元としてスタートを切ることができた僕らは幸せ者だ。多くの友人・知人、仕事仲間、そして出版界の先輩たちから、親身な励ましの言葉と現実的で有益なアドバイスをいただいた。編集者二人で始めたこの先行きのしれない零細出版社に大事な原稿を預けてくださった著者と翻訳者のみなさんにも、どんなに感謝してもしきれない。質の高い本を作って、会社をきちんと成り立たせて、ご恩返しをしたいと思う。[鈴木]