〈Booksウト〉

古楽の終焉
HIP〈歴史的知識にもとづく演奏〉とはなにか

定価:本体3800円[税別]送料:国内無料

  • A5判・並製 | 440頁
  • 発売日 : 2022年4月15日
  • ISBN 978-4-86559-249-8 C1073
  • ジャンル : クラシック/古楽/音楽史
  • ブックデザイン:中島 浩

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クラシック/古楽界に衝撃を与える問題の書、ついに邦訳なる!
ピリオド・アプローチはほんとうに正しいのか?
クラシック音楽に真の生命をあたえるものはなにか?!

過去の音楽をそっくり再現して、どうするのか?
なぜ儀式のように音楽を聴かなければならないのか?
原典至上主義?──それは「テクスト・フェティシズム」にすぎないのでは?
古楽が追求すべきオーセンティシティとはどこにあるのか?
そして、「HIP(歴史的知識にもとづく演奏)」とは何をめざすものなのか?──

フランス・ブリュッヘン率いる18世紀オーケストラなどでオーボエ奏者、リコーダー奏者として活躍したほか、楽器製作や音楽学研究の分野でも多大な実績を残し、2011年に惜しまれつつ世を去った著者が、2007年に発表したThe End of Early Music: A Period Performer’s History of Music for the Twenty-First Century(Oxford University Press)。
音楽史のとらえ方を根底から更新し、クラシック音楽家の意識変革をうながし、返す刀で「原典至上主義」に拘泥する古楽演奏にも疑問符を突きつけた同書は、発表と同時に大きな話題を巻き起こした。
「HIP(historically-inspired perfomance; historically-informed performance=歴史的知識にもとづく演奏)」と「修辞学的音楽(rhetorical music)」の理想を知り、楽譜に書かれた音楽をただ再現するだけでなく、生命力にあふれたパフォーマンスをおこなうために、すべての音楽家がひもとくべき書、ついに待望の完訳!

ためし読みもできます! こちらからどうぞ▼
https://hanmoto9.tameshiyo.me/9784865592498

本書の内容と連動し、Apple Music/Spotify/Naxos/YouTubeで聴ける参照音源リストはこちら▼
https://artespublishing.com/news/theendofearlymusic_playlist/

プロフィール

  • ブルース・ヘインズ(Bruce Haynes)
    1942年、アメリカ・ケンタッキー州生まれ。オーボエ奏者、リコーダー奏者、音楽学者。オランダ王立音楽院でフランス・ブリュッヘンに師事し卒業。演奏のかたわら、楽器製作、研究をおこない、1972年より同音楽院で教鞭をとる。バッハ教会カンタータ全曲録音シリーズ(テレフンケン、アーノンクール、レオンハルト指揮)や、18世紀オーケストラ(ブリュッヘン主宰)の演奏活動に参加した。1983年同音楽院を退職、新しくカナダ・モントリオール大学での研究活動に入り1995年にPh.Dを得る。特にオーボエの演奏法や歴史と、バロック時代のピッチについて多くの研究と著作を発表。同大学准教授として教鞭をとった。2011年没。

  • 大竹尚之(おおたけ・なおゆき)
    1945年生まれ。リコーダー奏者。オランダ王立音楽院でブリュヘン、ヘインズ、ヴィンガーデンに師事、同音楽院卒。バロック・オペラ、オラトリオ、カンタータなどで室内合奏団、合唱団と数多くの共演を重ねている。ルネサンス、バロック音楽の研究でも知られ、大学紀要(東京音楽大学)、雑誌への寄稿も多い。著書に『大竹尚之のリコーダー教本』(トヤマ出版)、訳書にハウヴェ『現代リコーダー教本』(ショットミュージック)、CD録音に『諧謔音楽シリーズ』『僕の好きな歌』『Jacob van Eyckの祈り』『hommage a Jacob van Eyck』などがある。元東京音楽大学講師。

CONTENTS

  はしがき
  謝辞

 
  読譜力(リテラシー)
  ロマン派革命
  正典主義と古典主義
  進歩か適応か
  思わぬ発見をする才能(セレンディピティ)
  音楽修辞学
  意思の表明としての正統性
  “要注意”と見なされる正統さ
  古楽の終焉
  ミュージッキング
  用語と概念

I 演奏スタイル

 第1章 言い方が違えば、言うことが違う
  “流行とは、流行遅れになるもののこと”
  革新
  料理本を食べる
  クロノセントリズム(現代中心主義)──伝統としての音楽
  多元主義の台頭──時代に適した演奏スタイル

 第2章 足下にご用心──進行形のスタイル
  三つの抽象概念──ロマン派、モダン、ピリオド・スタイル
  ロマン派のスタイル──絶対性
  ロマン派演奏の真髄を遺す録音
  革命の予言者たち──ドルメッチとランドフスカ
  一九六〇年代のオーセンティシティ革命
  ピリオド楽器とロー・ピッチの到来──“奇妙で不揃いな色彩”
  連鎖反応
  指導者たちのスタイル──名前のないレトリック

 第3章 主流のスタイル──“腕はあるけど魂がない”
  モダニズムとモダン・スタイル
  ロマン派スタイルとモダン・スタイル、演奏習慣の比較
  ヴィブラート、音楽のメッセージ
  モダニズムの子供たち
  モダン・スタイルと比較したピリオド・スタイル
  クリック・トラック・バロック
  ストレート・スタイルとモダニズム
  退屈しないで、さあ!──ストレート・スタイルの説明

II どうロマン派的なのだろうか

 第4章 クラシック音楽、ざらついた感触の愛撫
  音楽の正典
  チャールズ・バーニーと音楽史事始め
  ロマン派はなぜ音楽を“古典(クラシック)”と呼んだのか
  コンサーヴァトリー(音楽学校)が保存(コンサーヴ)するものとは
  絶対音楽(自律の原理)
  パッヘルベルのカノンが、“カノン”になる
  オリジナリティと天才崇拝
  帰属性とデザイナー・ブランド
  再演に適うこと、儀式化としての演奏

 第5章 透明な演奏者
  作曲家の意図(“作曲者への忠誠”)
  楽曲とは何か
  ヴェルクトロイエ(Werktreue=原典に忠実であること)──音楽の原理主義的信仰
  原典至上主義とテクスト・フェティシズム
  アンタッチャビリティ(不可触性)
  “透明な”演奏者と“完全に忠実であること”
  ロマン派が発明した、解釈する指揮者
  マエストロのリハーサル

 第6章 変わりゆく意味合い、永続する記号
  変わりゆく意味合い、永続する記号
  記述的記譜と慣例的記譜
  不完全なスコア
  書かれた楽譜の口述的要素
  修辞学的音楽では基本骨子をのみ記譜
  暗黙の記譜
  ストレート・スタイルとよそよそしい“リハーサル”
  様式対解釈
  「バッハと言ってテレマンを意味する」──ロマン派時代以前の作曲者の意図

III 時代錯誤とオーセンティシティ

 第7章 オリジナル耳
  様式とヴィンテージを比較する
  セコンダ・プラッティカ
  正統性運動の過去の実例
  贋作とピリオド演奏会の違い
  音楽史学とHIPはどう違うのか
  ロマン派とバロック期の聴衆を比較する
  ヴィクトリア朝の装いをしたピリオド演奏家たち

 第8章 過去をコピーするさまざまな方法
  エミュレーションとレプリカ──模倣にたいする二つのルネサンス的アプローチ
  エミュレーションの原則
  レプリカの原則
  正典主義的な体系での模倣
  スタイルのコピーと作品のコピー
  “亡霊に語りかけること”と作品コピー
  コンティキ号の観察
  歴史上“何が本当に起こったか”
  歴史の彼方──歴史的証拠の賞味期限
  アナクロニズムのどこが悪い

 第9章 表現手段はメッセージだ──ピリオド楽器
  楽器のトレード・オフ
  楽器が演奏スタイルにおよぼす影響
  秋のヴァイオリン
  ピリオド楽器──ハードウェアとソフトウェア
  製作家を比較する
  オリジナルの“粗”
  ルフェーヴル・チェンバロ──スタイル・コピーを超える
  もっと“根拠の正しいフェイク”を熱望する
  “壊れていないものを直すな”──触らぬ神にたたりなし

IV 何がバロック音楽を、“バロック”たらしめるのか

 第10章 バロック的表現とロマン派的表現を比較して
  修辞学──コミュニケーションを超えて
  もう一度、気持ちをこめて──アフェクション
  説得力──聴衆を味方に
  デクラメーション(劇的朗読)/エクスプレッション(表現)/フォーアトラーク(演奏)
  傾倒──“自身が燃えあがる”バロックの演奏家
  ロマン派の表現──“音の自叙伝”
  修辞学はロマン派に見捨てられた──“故障につき使用不可”の芸術
  美(=美学)に圧倒された修辞学

 第11章 虹と万華鏡──ロマン派とバロック期のフレージングを比較する
  フィギュールとジェスチャー
  旋律フィギュールの実例
  対フレーズとしてのジェスチャー
  意味の順序もしくは、階層──ジェスチャーとフレーズ
  インフレクション(抑揚)──個々の音作り

V “古”楽の終わり

 第12章 受動的と能動的なミュージッキング──見てないで自分を育め
  カヴァー・バンドの心理
  風の中で演奏すれば
  装飾(グレーシング)──作曲と演奏の境界
  即興演奏──演奏者の領域
  作曲上のスタイル・コピー
  ロール・オーヴァー・ベートーヴェン
  天才という障壁について考える
  現代のピリオド作曲を表す二例
  デザイナー・レーベル
  私たち自身の音楽

 第13章 終わりなき革命
  “愚者と狂者の音楽”──趣味が受け入れるものの限界
  モーツァルトから私たちの時代まで、途切れなかった演奏スタイルという幻想
  ベートーヴェン論争と宿命の証明
  “終わりなき革命”と変わりゆく趣味
  HIPはアンチ・クラシック
  デフォルト様式
  必要としての歴史家たち
  時の彼方を見ようとすること
  オーセンティシティの追求

  原注・訳注
  訳者あとがき
  参考文献一覧
  参考文献略号一覧
  人名索引