バロック・チェロ奏者にして
音楽界随一の名文家が滋味豊かに綴る
古楽の歓びに満ちた最新エッセイ集。
通奏低音は時に面倒な仕事である。
しかしそれは、
込み入った過程を経て出来上がる
様々な工芸の世界にも似て、
大量生産とは違う味わいの音楽造りに
必要な理解と技術なのである。
──「あとがき」より
バロック音楽の演奏になくてはならない「通奏低音」。
古楽がブームを経て音楽ジャンルのひとつとして定着した現在でも、「通奏低音とは何か」は正しく理解されているとはいえない。
「鍵盤楽器の隣」を定位置とし、旋律楽器にくらべて目立たず、それどころか、なんとなく簡単そうな仕事と見られがちなバロック・チェロ奏者は、常日頃どんなことを考えながら演奏しているのか──。
古楽演奏の現場から、ユーモアとペーソスをこめて伝える「通奏低音弾き」の日常。
ジャンルを問わず、簡単そうな仕事や目立たない仕事にはいろいろと知られざる事情、悲喜交々の経験があるものだ。通奏低音もまた然り。こういう仕事をしている人、これからしたい人、また普段コンサートや録音で音楽を聴かれる方々にも、半ば裏方である通奏低音という仕事の事情を少しばかり知っていただき、楽しんでいただければ幸いである。
──「episode 1 通奏低音?」より
プロフィール
鈴木秀美(すずき・ひでみ)
神戸生まれ。デン・ハーグ王立音楽院に留学。ヨーロッパ各地で演奏・指導する他、1994年に新設されたブリュッセル王立音楽院バロック・チェロ科に教授として招聘され、2000年に帰国するまで務めた。ソリストとして、また18世紀オーケストラ、ラ・プティット・バンドのメンバー及び首席奏者として演奏し、バッハ・コレギウム・ジャパンでは2014年まで首席奏者。2001年に古典派を専門とするオーケストラ・リベラ・クラシカを創設し、ハイドンを中心とするコンサートを続ける他、室内楽シリーズ『ガット・サロン』を定期的に行い、自身のレーベル《アルテ・デラルコ》で録音を続けている。指揮者として日本各地の交響楽団に客演し好評を博す他ポーランド、オーストラリア、ベトナムなどに招かれる。山形交響楽団首席客演指揮者。東京音楽大学チェロ科客員教授、東京藝術大学古楽科講師、雑司谷拝鈍亭終身楽長。楽遊会弦楽四重奏団メンバー。CD録音はソロ・室内楽・指揮全般にわたって多数。著書に『「古楽器」よ、さらば!』(音楽之友社)、『ガット・カフェ』『無伴奏チェロ組曲』(東京書籍)。第37回サントリー音楽賞、2011年度齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞。
CONTENTS
第Ⅰ部 通奏低音弾きの言葉では、
[episode 1]通奏低音?
[episode 2]不均等な音律
[episode 3]ステージの調律師
[episode 4]ピッチ
[episode 5]音の間隔、指の感覚
[episode 6]両隣の鍵盤
[episode 7]発音と減衰
[episode 8]発音の道具
[episode 9]音量の問題
[episode 10]王の拍と卑しい拍、緊張と弛緩
[episode 11]アップダウン・クイズ
[episode 12]初見が常識……
[episode 13]Walking bassの針小棒大
[episode 14]練習曲と大作曲家
第Ⅱ部 通奏低音弾き、シャンソンを弾く
シャンソンと通奏低音
通奏低音弾きのインテルメッツオ
不自由な人間
想い出の屋台
弦楽四重奏と、その上
第Ⅲ部 通奏低音弾きの師
井上頼豊先生
センセイとデシ
怠慢と廊下の得
フランス・ブリュッヘン氏を悼む
二人のB
あとがき