音楽の未明からの思考
ミュージッキングを超えて

定価:本体3000円[税別]送料:国内無料

  • A5判・上製 | 312頁
  • 発売日 : 2021年12月22日
  • ISBN 978-4-86559-247-4 C1073
  • ジャンル : 音楽研究
  • ブックデザイン:山田英春

「ミュージッキング」研究の地平を拡張し、「音楽の力」を問う新たな語りへ!

音楽研究のエポックとなったクリストファー・スモールの「ミュージッキング」という概念を手がかりに、その可能性をさらに広げるべく、世界各地でのフィールドワークに基づいて、文化人類学、民族音楽学、映像人類学、ポピュラー音楽研究、歴史人類学、音楽教育学などの研究者16人が挑みます。

本書は国立民族学博物館の共同研究プロジェクトを書籍化するもので、テーマやフィールドワークの現場となったのは、音楽療法/ディスコ/精神医療/掛け合い歌/バリ島の行列音楽/社交ダンス/アメリカ黒人教会/森の民「バカ」/徳之島の民俗芸能/長浜曳山祭/ウガンダの「カリオキ」/バリ・ガムランの竹笛スリン/佐村河内ゴーストライター事件/ショナの憑依儀礼/伊江島とエチオピアの伝承歌/「支那の夜」と米兵──とじつに多彩。こうした多種多様な事例と視点から音楽研究をバージョンアップさせる意欲的な論集です。

【序論「音楽の力を未明の領域に探る」より】
私たちが目指すのは、世界の様々な場所で営まれるミュージッキングを人と人、人とモノ、人と観念の「出会い」の場として把握し、そこからある種の普遍性や比較参照点を取り出し、音楽という概念を解体し、音楽の未明とでも呼びうる地平から思考を試みることである。それは、人びとの営みから「音楽」や「ダンス」をあえて抽出することなく、ミュージッキングの全体性をありのままに捉えることを意味する。

◎「ミュージッキング」
ニュージーランド生まれの音楽教育者クリストファー・スモールが、「音楽」「作品」「演奏者」のいずれをも特権化することなしに人々が音楽的実践にかかわる営みを捉えるために提唱した概念。「ミュージッキング」(musicking;音楽すること)というこの鍵概念は、音に媒介されつつ複数のエージェンシー(ヒト、モノ、環境、霊的存在など)が交わり合う場面や、そこで我々が感知したり言説化しようとするある種の「パワー」の存在様態を明らかにするという、従来的な「音楽学」「民族音楽学」「ポピュラー音楽研究」では十分に扱えなかった地平に我々を導く。[野澤豊一(本書企画概要より)]
(クリストファー・スモール著『ミュージッキング──音楽は〈行為〉である』野澤豊一・西島千尋訳、水声社、2011を参照)

執筆者プロフィール(編者は下欄)
西島千尋(にしじま・ちひろ):日本福祉大学准教授(2022年4月より金沢大学)。1981年、富山生まれ。金沢大学大学院人間社会環境研究科修了。専門は音楽教育学。

輪島裕介(わじま・ゆうすけ):大阪大学大学院文学研究科教授。1974年、金沢市生まれ。専門は近代日本大衆音楽史。

浮ヶ谷幸代(うきがや・さちよ):相模女子大学名誉教授。1953年、群馬県生まれ。文化人類学、医療人類学。主なフィールドは日本で、千葉県の糖尿病専門クリニック、北海道浦河町の精神医療専門のひがし町診療所、神奈川県藤沢市の小規模多機能ホーム〈ぐるんとびー〉など。

梶丸 岳(かじまる・がく):京都大学人間・環境学研究科助教。1980年、兵庫県生まれ。京都大学人間・環境学研究科修了。専門は民族音楽学、言語人類学。

増野亜子(ましの・あこ):東京藝術大学・明治大学他非常勤講師。東京都生まれ。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程単位取得退学。人文学博士。専門は民族音楽学、東南アジア芸能研究。

井上淳生(いのうえ・あつき):(一社)北海道地域農業研究所専任研究員。1980年、兵庫県生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。専門は文化人類学、農村社会研究。

矢野原佑史(やのはら・ゆうし):京都大学アフリカ地域研究資料センター特任研究員。1981年、鹿児島県生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。専門は音楽人類学、アフリカ地域研究。

福岡正太(ふくおか・しょうた):国立民族学博物館教授。1962年、千葉県生まれ。東京芸術大学大学院音楽研究科単位取得退学。専門は民族音楽学。

武田俊輔(たけだ・しゅんすけ):法政大学社会学部教授。1974年、奈良県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。専門は文化社会学・地域(都市)社会学・メディア論。

大門 碧(だいもん・みどり):北海道大学国際連携機構特任助教。1982年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。専門は都市文化人類学、アフリカ地域研究。

伏木香織(ふしき・かおり):大正大学教授。1971年生まれ。専門は民族音楽学、文化人類学。

井手口彰典(いでぐち・あきのり):立教大学社会学部教授。1978年、広島県生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。専門は音楽社会学。

松平勇二(まつひら・ゆうじ):兵庫県立大学国際交流機構特任助教。1982年、神戸市生まれ。名古屋大学文学研究科博士課程修了。専門は宗教人類学。

青木深(あおき・しん):神戸市外国語大学客員研究員、東京女子大学ほか非常勤講師。1975年、神奈川県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。専門は歴史人類学。

プロフィール

  • 野澤豊一(のざわ・とよいち)
    富山大学学術研究部人間科学系准教授。1978年、富山県生まれ。金沢大学大学院社会環境科学研究科修了。専門は文化人類学。主な業績に『顔身体学ハンドブック』(共著、東京大学出版会、2021年)、『富山の祭り:町・人・季節輝く』(共著、桂書房、2018年)など。訳書にC.スモール『ミュージッキング:音楽は〈行為〉である』(共訳、水声社、2011年)、T.トゥリノ『ミュージック・アズ・ソーシャルライフ:歌い踊ることをめぐる政治』(共訳、水声社、2015年)がある。

  • 川瀬慈(かわせ・いつし)
    国立民族学博物館准教授。1977年、岐阜県生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。専門は映像人類学、アフリカ地域研究。主著に『ストリートの精霊たち』(世界思想社、2018年、第6回鉄犬ヘテロトピア文学賞)、『エチオピア高原の吟遊詩人 うたに生きる者たち』(音楽之友社、2020年、第43回サントリー学芸賞)、『叡智の鳥』(Tombac/インスクリプト、2021年)。また、主な映像作品に『僕らの時代は』、『Room 11, Ethiopia Hotel』、『精霊の馬』、『アシェンダ!エチオピア北部地域社会の女性のお祭り』がある。

CONTENTS

序論 音楽の力を未明の領域に探る……野澤豊一

第Ⅰ部 あつまる・かさなる
 第1章 なぜ人は音楽療法をするのか──福祉現場のフィールドワークから……西島千尋
 第2章 ダンスと振付の間──日本ディスコ史から考える……輪島裕介
 第3章 音楽することと家を建てること……浮ヶ谷幸代
 第4章 融合と社交 ──歌で参与するあり方について……梶丸 岳

第Ⅱ部 まざる・とけあう
 第5章 バリ島行列音楽考──音・身体・場所の経験……増野亜子
 第6章 揺れからダンスへ──日本の社交ダンスにおけるカウントとリズム……井上淳生
 第7章 音楽ならざるものによる合体──アメリカ黒人教会における「喜ばしきノイズ」……野澤豊一
 第8章 プロト・ミュージッキング――「森の民」バカの社会におけるグルーヴの遍在……矢野原佑史

第Ⅲ部 つかう・つくる
 第9章 行為としての民俗芸能の映像記録とその活用……福岡正太
 第10章 「囃す」というミュージッキング──シャギリが生み出す祭礼の場と関係性……武田俊輔
 第11章 権威をかわして音と戯れる──ウガンダのショー・パフォーマンス「カリオキ」のプログラム作成をめぐって……大門碧
 第12章 変わるスリンの指穴──ものと演奏行為の相互作用……伏木香織

第Ⅳ部 おもう・かたる
 第13章 ミュージッキングはゴーストライトの(悪)夢を見るか?──佐村河内ゴーストライター事件が示唆するもの……井手口彰典
 第14章 ショナ社会における音楽的才能の霊性──マシャウィ儀礼の事例から……松平勇二
 第15章 歌の内なる生──伊江島のくゎーむいうたとエチオピアの蠟と金の事例より……川瀬 慈
 第16章 歌が呼び覚まされるとき──アメリカにおける「支那の夜」とその記憶……青木 深

おわりに……川瀬慈

執筆者プロフィール