『モーストリー・クラシック』で青澤隆明さんが『ラドゥ・ルプーは語らない。』を紹介

『モーストリー・クラシック』8月号の「私の夢のコンサート」のページで、音楽評論家の青澤隆明さんが板垣千佳子編『ラドゥ・ルプーは語らない。──沈黙のピアニストをたどる20の素描』を紹介してくださいました。

「聴きたかった、体験したかった歴史的公演」という副題のついたこのページ、さまざまなライターや評論家が「あの公演を体験できなかったことの悔恨」を告白するユニークなコーナーですが、青澤さんは2019年6月21日ルツェルンでのラドゥ・ルプー最後の演奏会を取り上げておられます。

 演奏会のその場その場で生起する音楽を、ルプーは最後まで人々と分かちあっていった。なんであれ記録というものを信じなかったのだろう。音楽は記録されるものではなく、生命とはそういうものだ。過ぎていく時間のなかで、たったいちどだけ、その場かぎりで起こり得る音楽を、彼は奇跡に手をのばすように忍耐強く待ち続けてきた。

青澤さんの惜別の思いが心に深く染みいってきます。

その「不在」がいまだにかぎりない感興をよびおこす音楽──ルプーの音楽とはまさにそういう種類のものでした。