「Mercure des Arts」に『つながりと流れがよくわかる 西洋音楽の歴史』の書評掲載

音楽批評ウェブ「Mercure des Arts」に『つながりと流れがよくわかる 西洋音楽の歴史』(岸本宏子+酒巻和子+小畑恒夫+石川亮子+有田栄 著/河合千明 イラスト)の書評が掲載されました。評者は大河内文恵さん。

Books|つながりと流れがよくわかる西洋音楽の歴史|大河内文恵|Mercure des Arts

この本は、歴史の流れを的確に記述しつつ、コンパクトな1冊にまとめるという相反する2つの条件をどうやって同時に満たすことができたのか。その解決の一端は、たいていの音楽史の本に見られるものを気持ちよく追放することによって達成されている。作曲家の顔や有名な場所の写真、地図、絵画などの図像は一切なく、地図はごく限られたものが絵図になり、作曲家の顔や絵画の一部はイラストになっている。譜例も単なる曲紹介のためのものは割愛され、音楽上の技法などを説明するために不可欠なもののみに限られている。

さらに、詳しい説明が必要な項目(たとえば、ごく限られた作曲家の生涯、通奏低音やソナタといった音楽用語)は、コラムという形で文字のポイントを2~3段階落として、ぎっしり詰め込んで説明されている。作曲家の原綴や生没年といったお決まりの情報も本文中には記されていない。

そうやって、語られる本文だけを読んでいけば、「西洋音楽史」の流れが歴史の流れとともにすっと入ってくるようになっている。

[…]本書には類書にはあまり見られない詳細な記述もみられる。コラムでは、作曲家ばかりでなく音楽理論家も取り上げられていたり、オペラについては、オペラのみの概説書にも負けないほどの情報量を誇る。

本書の20世紀の記述のなかで「社会の動きと音楽」と立項された箇所では、ソ連とナチスが音楽にどれだけの影響を与えたのか、踏み込んだ記載がなされている。音楽は政治や社会とは別物だという人にはぜひ読んで欲しいところである。

このように、たいへん高く評価していただきました。

本書刊行直前の岸本宏子さんの逝去についても触れてくださっていますが、このように音楽学のバトンが受け継がれていくのだと感慨深く読みました。