フィリップ・ストレンジさんの序文を公開します。

5月下旬発売予定の新刊、『すごいジャズには理由(ワケ)がある』。著者のひとりでジャズ・ピアニストのフィリップ・ストレンジさんによる序文を一足先に公開いたします。この本の「すごさ」が簡潔に言い表されているとともに、知的でジャズへの愛情にあふれた素晴らしい序文です。

読者のみなさんへ
 ジャズは彩り豊かな長い歴史をもっています。エンタテイナーたち、コメディアンたち、とてつもない美女たち、カッコイイ男たち、麻薬患者、金持ちのパトロン、奴隷だった人々、ダンサー、ヨーロッパのセレブ、ボクサー、牧師、背後にマフィアがいる連中、レコード会社の重役、独学のミュージシャン、音楽院を卒業した人たちなどなど……。
 多くのジャズ・ミュージシャンは物語のような人生を送ってきました。口コミの楽しいエピソード、とりわけ事実とも作り話ともつかないご乱行の物語のオーラが、ルイ・アームストロング、チャーリー・パーカー、マイルズ・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンズといった伝説のミュージシャンたちを彩ってきました。多くの伝記が彼らのキャリアについての一般的な説明に加えて、その個人生活の興味深く生き生きしたポートレイトを提供してくれます。
 しかしながら、アーティストの真価とは最終的には彼らの芸術のクオリティにもとづくものです。ジャズはいわば、プレ・コンポジションとリアルタイムでなされるコンポジションとが混ざり合ったような音楽です。ジャズの「実質」とは、リズム、メロディ、ハーモニー、形式、そして音色にほかなりません。
 ジャズの歴史の明快な把握は、音楽そのものについての実践的な深い理解、とりわけ偉大な先人たちの手によって、時代とともに音楽がどのように変化し発展してきたかについてのそれにもとづかねばならないのです。真の理解こそが混乱を取り除き、この驚嘆すべき芸術形式への真摯にして持続的な愛への道をひらいてくれると、私は考えています。
 この本の中で私と岡田暁生氏は、偉大な芸術家たちを例にとりながら、音楽そのものの発展にもとづいたモダン・ジャズ史を描き出そうと試みました。
  2014年4月3日 フィリップ・ストレンジ、DMA