交響曲の聴取の変化について、これほどの広がりをもって議論を展開した著作は珍しい|『音楽学』に『「聴くこと」の革命』の書評掲載

日本音楽学会の機関誌『音楽学』第63巻1号に、マーク・エヴァン・ボンズ著/近藤譲訳/井上登喜子訳『「聴くこと」の革命──ベートーヴェン時代の耳は「交響曲」をどう聴いたか』の書評が掲載されました。評者は音楽学者の安田和信さん。

18世紀最後の10年と19世紀最初の10年の間に、ドイツ語圏諸国において器楽、とりわけ交響曲の聴取に大きな変化が起こったということに焦点をあてている。当時の文学者や哲学者による多くの言説の読解を軸としつつ、これほどの広がりをもって議論を展開した著作は非常に珍しく、本書によって日本語で読むことができるようになった意義は決して小さくないだろう。

 膨大な文書資料を縱橫に駆使した本書は、交響曲が器楽ジャンルのヒエラルキーの最上位に君臨するようになり、また、ドイツ的なジャンルとみなされるようになったことという、ありふれた解釈への補強が主眼となっているという意味では、必ずしも新鮮な見解に繋がっているわけではない。だが、その補強こそが豊かな内容を誇り、本書の有用性を高めているのである。

……翻訳が読みやすい点は強調しておきたい。日本語に置き換えた場合に意味が掴みにくい個所では言葉が補われるなどの配慮もある。

本書の内容を細かく解きほぐして紹介し、高く評価してくださいました。[G]