バッハをはじめとする無伴奏ヴァイオリンの名曲たち──
そこに屹立するイザイの《無伴奏ソナタ》を中心に、
ひとりで音楽をすることの孤独と歓びに向き合う。
寺神戸亮さん推薦!
無伴奏──孤独、苦しみ、不安定、自分を晒すこと。
ヴァイオリンにとってのある種の極限状態が、無伴奏の作品には求められている。しかしそれは同時に、無限の可能性と自由に向かって開かれた扉の入口でもあるのだ。
ほんらい伴奏に支えられてメロディを演奏するのに適したヴァイオリンだけで、ひとつの音楽世界を描き出そうとする試みは、17世紀から現代まで、さまざまな作曲家の手によってなされてきた。
誕生から現在まで、その基本的な構造にはほとんど変更が加えられなかった〈完全な楽器〉。しかし、単独で演奏すると不完全、アンバランスにおちいる危険性のあるこの楽器1本のために、それでもどれほど素晴らしい音楽が生み出されてきたことか。
ヴァイオリンだけの力強く、華やかな、しかし儚い音の世界へ誘ってくれる、そんな本の登場だ。
個人的には現在自分が住んでいるベルギーの大ヴァイオリニスト、イザイについて詳細に記されていることにたいへん興味を惹かれ、また彼の《無伴奏ヴァイオリン・ソナタ》を演奏してみたい衝動にかられた。
──寺神戸 亮(ヴァイオリニスト・指揮者)
プロフィール
小沼純一(こぬま・じゅんいち)
1959年東京都生まれ。早稲田大学文学学術院教授。専門は音楽文化論、音楽・文芸批評。第8回出光音楽賞(学術・研究部門)受賞。創作と批評を横断した活動を展開。主な著書に『無伴奏──イザイ、バッハ、そしてフィドルの記憶へ』(アルテスパブリッシング)、『武満徹逍遥──遠ざかる季節から』『魅せられた身体──旅する音楽家コリン・マクフィーとその時代』(以上、青土社)、『本を弾く──来るべき音楽のための読書ノート』(東京大学出版会)、『映画に耳を──聴覚からはじめる新しい映画の話』(DU BOOKS)、『音楽に自然を聴く』『オーケストラ再入門』(以上、平凡社新書)ほか。創作に『しっぽがない』『ふりかえる日、日──めいのレッスン』(以上、青土社)、『sotto』(七月堂)ほか。
CONTENTS
1 ひとりでヴァイオリンを弾くこと──はじめに
2 〈無伴奏〉の作曲家たち──バッハ、パガニーニ、ヒンデミット、バルトーク……
3 「鳥たちは歌い、イザイはヴァイオリンを弾く」──ウジェーヌ・イザイの生涯
4 フィドルの記憶──イザイの無伴奏ソナタをめぐって(1)
5 音のかたち──イザイの無伴奏ソナタをめぐって(2)
6 ひとりでありつづけることをひきうけるために──むすびに