日本のクラシック音楽、100年の軌跡を可視化する!
大正期から今日までの演奏会データを徹底分析し、
わたしたちの音楽文化形成の過程を実証する。
ベートーヴェンなどドイツ音楽への傾倒、
カルメン人気にみる大衆音楽への接続、
そして「正典」を中心に均質化するレパートリー──
大正時代から21世紀初頭まで、
100年間にわたるプロ・オーケストラや
学生オーケストラの演奏会データを分析し、
人気レパートリーの形成と、
一部の作品が「正典」として権威を獲得するまでのプロセスを追い、
さらにヨーロッパやアメリカとの比較をつうじて、
日本人がクラシック音楽とどのように向き合い、
受け容れてきたのかを解き明かす。
日本の音楽文化の真実に実証的にせまる意欲的な研究!
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https://hanmoto9.tameshiyo.me/9784865593051
プロフィール
- 井上登喜子(いのうえ・ときこ)東京生まれ。お茶の水女子大学教授。博士(人文科学)。専門は音楽学(西洋音楽史、音楽社会学)。お茶の水女子大学卒業、同大学院博士課程修了。在学中にハーバード大学大学院留学。お茶の水女子大学助手、東邦音楽大学准教授を経て、現職。オックスフォード大学訪問研究員。著書に『音楽文化の日本近現代史』(共著。青弓社より近刊)、翻訳書に『「聴くこと」の革命──ベートーヴェン時代の耳は「交響曲」をどう聴いたか』(M.E.ボンズ著。共訳。アルテスパブリッシング)、主要論文に“Western classical music in a non-Western culture: The repertoire of Japanese professional orchestras in the twentieth century”(Poetics)など。
CONTENTS
序章 クラシック音楽文化はどこから来て、どこへ行くのか
──「正典」への憧憬と挑戦
はじめに
本書の出発点となる問い
レパートリーと正典
用語と鍵概念
「正典レパートリー」をめぐる問題
本書の学問上の位置づけ
音楽と社会の接点
音楽制度と音楽生活の研究──音楽社会学と音楽社会史
洋楽受容史を超えて
レパートリー形成の実証研究
実証研究のアプローチ
オーケストラ演奏会のレパートリー・データ
本書の構成と各章の概要
プロローグ 日本のオーケストラ文化の起点──大正期へのまなざし
第一章 オーケストラ文化の誕生──明治・大正期の音楽生活とアマチュア
一 はじめに
二 学生オーケストラの創設と洋楽愛好家の若者たち
三 学生オーケストラの演奏会と曲目選考
四 初期の演奏会における「寄せ集め」のプログラム
1 慶應義塾ワグネル・ソサィエティー
2 九州帝国大学フィルハーモニー・オーケストラ
五 「シンフォニー・コンサート」の登場
六 結び
第二章 人気レパートリーの形成
──大正・昭和初期のベートーヴェンの交響曲受容の検証
一 はじめに
二 学生オーケストラの演奏レパートリー・データ(一九〇二−一九四一年)
三 人気レパートリーの二枚看板──ベートーヴェンの交響曲とオペラ抜粋
四 ベートーヴェンの交響曲受容の背景
1 ドイツ音楽中心の「洋楽受容モデル」
2 「記されたもの」から「鳴り響くもの」へ
──ベートーヴェン受容の転換期
3 ドイツ⾳楽への対抗──フランス音楽、ロシア音楽の受容
4 レパートリーの「画一化」
5 小括
五 人気レパートリーの形成要因の検証
1 仮説「人気曲目はいかなる要因によって決まるのか?」
2 問いの検証結果
六 結び
第三章 カルメンを愛した日本人
──ジャンルを横断するオペラ抜粋レパートリー
一 はじめに
二 初期の「カルメン」受容
三 大正期の「カルメン」受容の背景
1 堀内敬三による《カルメン》の訳詞
2 「カルメン」の舞台上演──浅草オペラとロシア⼤歌劇団
四 「カルメン抜粋曲」の普及
五 学生オーケストラの演奏会と「カルメン抜粋曲」
六 結び
インテルメッツォⅠ
第四章 正典と革新──戦後日本のオーケストラ文化とレパートリーの形成要因
一 はじめに
二 プロ・オーケストラの設立と普及──時代背景と社会的環境
1 戦後のインフラ整備
2 人々の意識の変化
3 オーケストラの設立
4 オーケストラの運営形態
5 オーケストラの財政
6 新たな聴衆の開拓
三 分析の観点
1 演奏能力
2 財政的基盤
3 文化政策
4 音楽教育
四 日本のプロ・オーケストラの演奏レパートリー・データ(一九二七−二〇〇〇年)
1 対象団体
2 レパートリー・データの特徴
五 レパートリーに変化をもたらす外部要因の検証
1 仮説「レパートリーに変化をもたらす要因は何か」
2 問いの検証結果
六 結び
インテルメッツォⅡ
第五章 オーケストラ・レパートリーに革新は起きるのか?
──国際比較による検証
一 はじめに
二 分析の観点
1 「正典」の優位性
2 「正典」からの逸脱
3 「革新」の諸要因
三 日本・ドイツ・アメリカのメジャー・オーケストラの演奏レパートリー・データ(一九四六-二〇一四年)
1 対象団体
2 レパートリー・データの特徴
3 指揮者の属性
四 レパートリーに多様性をもたらす指揮者要因の検証
1 仮説「指揮者の多様性はレパートリーに革新をもたらすか?」
2 問いの検証結果
五 結び
1 「指揮者の多様性」が「レパートリーの多様性」を生む
2 オーケストラ文化と「革新」
エピローグ オーケストラ文化の多様性を問う
本書の分析結果
レパートリーの「革新」はなぜ必要なのか
オーケストラ文化の多様性と包摂性
あとがき
注記
初出一覧
参考文献
主要索引