2025年7月18日付の『週刊読書人』に小林聡幸編『シネパトグラフィー 映画の精神分析』の書評が掲載されました。評者は島根大学法文学部准教授で映像論を専門とする伊集院敬行さん。
書評のタイトルは「作家の病理と集団創造 病跡学(パトグラフィー)の可能性を映画(シネマ)へと開く」。天才の病理と創造性との関係を明らかにしようとする「病跡学(パトグラフィー)」の手法で、集団創造である映画を分析することができるのかという疑問から発し、
[…]本書はたんに映画を作家の症状と見なすだけではない。ここでは作家を中心とした人間関係、すなわち映画の制作集団(スタッフ、仲間)も分析の対象とされ、作家個人の個性や病理がどのように制作集団に影響を与えたのかが分析されている。[略]
[…]個人である個人が病理に苦しむように、制作集団も一人の人間のようにその病理に苦しみ、また、個人の病理のエネルギーは制作集団全体にまで拡大しつつ、創造性へと結晶するのだろう。
と喝破。
[…]作家の病理が集団の中でどのように機能していたのかを問うことで、作家の個性が病的であれ、健康的であれ、彼らの制作を支える映画の集団創造のプロセスそれ自体が作家にとって「癒し」としてあったことを本書は教えてくれる。
[略][…]創作過程の中で作家の感情が再演・強調されるからこそ、そうして制作された作品は作家自身の内奥を明かし、我々の心を激しく揺さぶるものとなる。
このように本書のコンセプトを評価したうえで、
精神医学・心理学の視点から集団創造を論じることで本書は、デジタルメディアやSNSを考察する切り口をも我々に与えてくれる。
と結んでおられます。