『音楽学』に『武満徹のピアノ音楽』の書評が掲載

日本音楽学会の機関誌『音楽学』第70巻(2024年)2号(発行:2025年3月15日)に原塁著『武満徹のピアノ音楽』の書評が掲載されました。評者は音楽学者の小野光子さんです。

20世紀を代表する作曲家のひとり、武満徹(1930–1996)の「『作品=楽譜=作曲技法』と『言葉=思考=美学』。戦後日本に固有の『コンテクスト』という三者を紡ぎあわせ再文脈化しながら、その相互作用のダイナミズムに光」(11–12)を当てた、意欲的な書である。
[略]著者は、日本語に限らず英語、フランス語、ドイツ語で書かれた数々の先行研究にも目を通した上で論を展開している。また本書には多くの譜例と注があるが丁寧な編集で見やすい。[略]そして何よりも、何度も読み返したい学術論文を手頃な価格で手にできるのは嬉しいことだ。

と出版の意義について言及したうえで、全5章からなる同書の内容を紹介しています。

 本書は楽譜と言葉から武満の創作の秘密に論理的に迫ろうとした力作である。とくに第一章における分析は鮮やかで説得力があった。習作期の武満の作曲プロセスを自筆譜と初演譜を用いて解き明かした分析や、ルヴェルディの試論から当時の美学に迫った考察はワクワクさせられた。それはまるで謎解きが展開される推理小説を読むようであった。

と評価しつつも、

ところが、章を重ねるごとに第一章で見せた緻密さと繊細さが失われていくように感じた。とりわけそう感じたのが「一音」をめぐる考察である。
[略]もし武満のいう「一音」がどんな複雑さをもつのかについて具体的な音響を考慮したならば、第一章と第二章で得られた考察をその後の章で扱った《閉じた眼》と《雨の樹 素描》の解釈にも生かすことができたのではないかと思う。

書籍タイトルの「ピアノ音楽」という表現は、「電子音楽」「映画音楽」とは異なり、聞き慣れず使い慣れない。博士学位論文のタイトル[「武満徹の作曲技法と美学に関する研究:ピアノ独奏曲を中心に」]の方が内容的にもしっくりきた。

といくつかの批判的ご意見もいただきました。