夏休みは音楽書を読もう!──7/10片山杜秀×秋岡陽トークイヴェント報告

ピアノ大陸ヨーロッパ

去る7/10(土)、ヤマハ横浜店にて、片山杜秀さんと秋岡陽さんのトークイヴェントが開催されました。同店で開催していただいているクラシック迷宮図書館』『続・クラシック迷宮図書館』発売記念フェアの一環としてのイヴェントで、お題は「夏に読みたい音楽書」。同書でとりあげられた書物だけでなく、最近面白かった本、学生に人気の本など、さまざまな音楽書が紹介されました。
以下、当日紹介された本を列記します。
●片山さん推薦
レヴィティン『音楽好きな脳』白揚社

・なんでも脳で説明する風潮があってきわどい本が多いが、あるていど信頼できる。
・音楽と小脳の話が面白かった。小脳はかなり原始的な器官で音楽と関係なさそうだが、小脳は運動と時間を司る。音楽は芸術だと思いたがるが、生き物として生きていくために必要なものだということ。
・人間は音の情報と感情を高度に結びつけることに成功したから、この地上で繁栄した。音楽は生き残るための訓練になっている、ということを、この本から学び取った。

三上敏視『神楽と出会う本』アルテスパブリッシング

・自分は神楽を国立劇場でしか見てないが、三上さんは現地で楽しんでおられて、うらやましい。
・いま相撲が話題だが、あれもスポーツじゃなくて芸能。一人相撲は神様と相撲してかならず負けることになっている。スポーツの部分は余興。音楽が音の部分だけ特化してしまったが、神楽は芸能や宗教と一体だったころの音楽の姿を表している。

シーゲル『サキソフォン物語』青土社

・サキソフォンが流行ったのは、カルーソやクライスラーのヴィブラートをうまく模倣できる楽器だったから、と書かれている。

モラスキー『ジャズ喫茶論』筑摩書房

・著者が否定したいと思っている前の学説のほうが、じつは面白かった(笑)。

●秋岡さん推薦
西原稔『ピアノの誕生』講談社

・最近は、ピアノを弾いてると「変わってるね」といわれる学生がいて、彼ら/彼女たちは「ピアノを弾く自分って、なに?」と考えることが多い。そんなときにこの本などはよく読まれる。


西原稔『「楽聖」ベートーヴェンの誕生』平凡社

西原稔『ピアノ大陸ヨーロッパ』アルテスパブリッシング

・西原さんの本はこの2冊もおすすめ。

Robert P. Morgan, Anthology of Twentieth-Century Music, W W Norton & Co Inc

・(秋岡さんの)シカゴ大学時代の恩師の本。向こうはこういう堅い本がしっかり刊行されていて、いいですよね。

西川尚生『作曲家・人と作品 モーツァルト』音楽之友社

・モーツァルトの伝記なんて、もう書くことないだろうと思ったけど、この本はいろいろ知らなかったことが書かれている。レクイエム書きながら陽気なホルン協奏曲を書いていたなんて、この本ではじめて知った。

川端純四郎『J.S.バッハ 時代を超えたカントール』日本キリスト教団出版局

・この著者は音楽学者じゃないが、とてもいい本。あのバッハ学者の小林義武さんも「いい本だ」とおっしゃっていたので、自信をもっておすすめします(笑)。

金澤正剛『古楽のすすめ』音楽之友社
(若かりしころ(30代後半?)の金澤さんの写真が登場!)

・自分で発見したつもりになっていたことが、この本を読んだらぜんぶ載っていた。
・最近出た新版も、かなり書き足してあっておすすめ。

Walter Benjamin, The Work of Art in the Age of Mechanical Reproduction(英語版)
Lawrence Lessig, Free Culture
David Kusek, Gerd Leonhard『デジタル音楽の行方』翔泳社
福井健策『著作権の世紀』集英社新書

・このへんは、やはり最近の著作権とか配信がらみでよく読まれる本。ベンヤミンとか、学生といっしょに原書講読するとみんなギョッとしてます。

Theodor W. Adorno, Essays on Music(英語版)
渡辺裕編『アドルノ 音楽・メディア論集』平凡社

片山「わたしの批評の元ネタもかなりアドルノです」
秋岡「後者はとても翻訳が読みやすいですね」

北川純子『音のうち・そと』勁草書房
東谷護『ポピュラー音楽へのまなざし』勁草書房
『ヲノサトルの甘い作曲講座』リットーミュージック

・ポピュラー音楽に関心のある学生に人気なのは、このへん。

R. Murray Schafer, The Soundscape

・この本は以前から人気があったが、最近はだんだん読まれなくなってきた。

小沼純一『武満徹 その音楽地図』PHP研究所

秋岡「びっくりしたのは、この本をはじめとして、Googleブックスでタダで読めちゃう本がたくさんあること。読めるのは一部分だが、うまく自分の知りたい部分に当たれば、本を買わなくてもいい(笑)」
片山「子供のころは出会うためにものすごく苦労したものが、ネットで簡単に手に入る。フリーになればなるほど、判断能力が必要になる。昔は手間やお金がかかるぶん選別能力が磨かれた」

以上、秋岡さんはiPadをプロジェクターにつないで、本の写真をスライドで壁に映しながらの解説。そのあいまに、なんだか意味不明の写真(※)がとつぜん映し出されたりして、面食らいましたが、それ以外は実にわかりやすいお話で、大学で講義を聴いている気分になりました。
※音楽之友社入社当時の木村の写真(じつは秋岡さん、音楽之友社時代の大先輩なのです)。しかも、上司の眼を盗んで作曲にいそしんでいるところなんかも映し出され、このときばかりは秋岡さんにご登壇いただいたことを悔やみました(笑)。
最後に聴衆からは、「片山さんに音楽史のブックガイドを書いてもらいたい。音楽史の研究史がわかる本があれば」という注文も、片山さん、「(アルテスの)木村さんと相談します(笑)」とのお答えでした。なるほど、面白そう。ぜひ計画しましょう、片山さん!

[木村]

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秋岡陽さん(左)と片山杜秀さん

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