アルテスの9月の新刊は潮博恵さんの『古都のオーケストラ、世界へ!──「オーケストラ・アンサンブル金沢」がひらく地方文化の未来』。金沢という一地方都市にいかにして世界水準のオーケストラが誕生したのか、その成功の秘密を解き明かした音楽ノンフィクションの快作です。
このほど、指揮者でオーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督の井上道義さんから、同書にたいして推薦コメントが届きました。全文をご披露いたします。
その演奏がどんなに努力とセンスと愛に満ちていたものであっても、 そして演奏会での感動がどれほど大きくても、 時間は人に忘却を手渡していく。 だからこそ、使い古されたと思われる作品でも、 演奏家は嬉々として、毎回初演のように音にしていく。 北陸に生まれた潮さんが、短くも長くもある25年という時間を、 世界的な視点と鋭い感覚をもって本にしてくれた。 岩城宏之さんから私が受け継いだ開拓魂に溢れた遺伝子、 オーケストラ・アンサンブル金沢のメンバーの持つ諸外国と日本の文化、 そして個性のぶつかり合い──。 互いを信じ合えたとき、本番は常に輝き、愛の表現と化す。 その美しい瞬間への憧れと、 人の役に立つ喜びを知る人々がこの本を手にしたとき、 面白いもの、素敵なものを追い求めることこそが人生であり、 そしてそれはすぐ目の前の人との関係から生まれるのだということを感じ取るにちがいない。
井上さんは現在、咽頭癌治療のため演奏活動を中止されていますが、その病床からのあたたかく力強いメッセージに感謝の言葉もありません。
治療の経過は順調で、7月中旬に退院され、現在は通院での治療に移行されているとのこと(KAJIMOTO|NEWS|指揮者 井上道義 治療経過と復帰に関して)。
マエストロの一日も早い復活を心からお祈りします!